屋根裏の小人
グッ、グッ、と足腰を伸ばして、入念にストレッチをする。
今日は年に一度の家族対抗運動会。近所の方々と集まって行う。
運動会と言っても、種目はリレーだけだから、少し大げさかもしれない。
会場は我が家の屋根裏。オレたちのサイズからすれば十分な広さだ。加えて会場となっているオレの家はとても広く、大きい。今どき珍しい平屋の日本家屋で、建てられてからもうずいぶんな時間が経過しているらしい。なので、家、と一言で言ってもまあまあな距離になる。
リレーというよりもマラソンリレーのほうが適しているのかもしれないが、まあそこは置いといて。
やるからにはもちろん、優勝を狙う。
この日のために毎日鍛えてきたのだ。
大きく息を吸って、深呼吸する。
近所の家族が入ってきた。
この辺の家族はみんな、核家族であるのを差し引いても人数が多い。兄弟姉妹も4人以上は当たり前なところが多い。
全員が走ると考えれば、一人あたりに走る距離はそう多くない。
走者は年齡が小さい順で走り、人数に差がある場合は、少ないところに合わせる。例えば十一人家族が十人家族に合わせるとなったら、年齡が小さい順から十人を走者とする。そういうルールだ。
「ご近所さんが全員集まったみたいよ」
母さんがそう声をかける。
「あれ、参加する家族はオレたちも含めて5家族だろ? 一つ少なくない気がするんだけど」
念のためにもう一度数えてみたが、やはり一つ少ない。
隣の家のところが来ていないのか。
「ああ、お隣さんは今年食中毒にあたって、おばあちゃんが死んじゃったのよ。それで喪中だから不参加」
「そうだったんだ……」
食中毒。
ここ最近、その言葉をよく聞く気がする。
「あんたも気をつけなさいよ」
「うん。母さんもね」
全員が集まったのを確認して、会場である屋根裏へ向かう。
そういえば昔、この家のばあさんが、「屋根裏でなにか音がするよ」と問われていたのを思い出した。
そのときばあさんは、「小人さんが運動会しているのかもねえ」と答えていた。
それを聞いたオレは屋根裏をくまなく探したが、小人なんてものはいなかった。今にして思えば、子どもに対してついた優しい嘘だったのだと分かるが、それと同時に、とある比喩表現だったとも分かった。
多分あのばあさん、オレたちネズミを小人って言ったんだろうな。