1 安寧のない日常
初めまして、Appleです。
好きな食べ物は梨です。
特に、冷えてシャキシャキの梨が大好きです。悠々自適な投稿をしていきたいと思っております。
温かい目で読んで頂けたら嬉しです。
魔族。
それは人々に恐れ慄かれる存在。
人間離れした強靭な肉体を持つ種族、膨大な魔力を持つ種族、魔族には多くの種族がある。
そんな中でも、頭に生えた角、黒い蝙蝠のような翼、鋭い尾を持つ種族は悪魔と言われる。
悪魔は魔法に優れた種族で、気分一つで町は壊滅し、屍の山を築き上げる。
放つ魔法は山を貫き、天空を穿つ。
そんな悪魔は・・・・・・
「またやりやがったなアルバレイン!てめぇのせいでまた砦が使えなくなっただろうが!」
上司に怒られていた。
アルバレイン=フォン=メイルロット。メイルロット伯爵家次男、魔王軍中将南方部隊総司令という家柄や役職に恵まれている彼だが、どぎついお叱りを受けている。
一見、筋肉の塊にしか見えない鬼人族の上司、ドルトムント元帥は額に血管をビキビキと浮かべながら怒鳴りつける。彼は魔王軍のトップに立ち、我々魔族を指揮する立場だ。彼の軍人としての伝説は数知れず。魔族以外も含め、彼の名前は誰もが知るくらいだ。
「いやぁ、思ったよりも人間たちの攻撃がきつくて・・・」
「ばぁか!そこを何とかするのがおめぇの仕事だろ!」
バン!と机を叩き、コップがその衝撃で倒れて水がこぼれる。
「そういわれましても、あいつら勇者を投入してきやがったんですよ。光る斬撃バンバン飛ばしてきて、砦の壁があっという間に壊されたんですよ。そのせいで攻め込まれてこっちの指揮系統はバラバラ。そのあと何とか追い返しましたが、それで精一杯ですよ。」
「だ~もう!もういい!後で始末書出せ!あと、砦の復旧はおめぇがやれよ!いいな!」
そう言って、ドルトムント元帥は部屋から出て行ってしまう。
「はぁ、あーくそっ!あの勇者、次会ったら顔に泥ぶっかけてやる!」
あーあ、調子に乗って宴なんかしなけりゃ、夜に攻め入ってきた人間たちを反撃できたのに。こりゃ、また禁酒だって言われちまうな。俺、アルバレインは元帥の部屋から出て、自室に向かう。
ここはバルハーツ魔王国軍総司令部。バルハーツ魔王国は二千年以上前から存在する歴史の長い国で、魔王バルハーツ様が統治している国のことでである。バルハーツ魔王国は、アーリア大陸の西部にある島国で、絶賛人間たちと戦争四年目だ。
この世界には四つの大陸があり、西のアーリア大陸、北のガガン大陸、東のノルデック大陸、南のルオーファン大陸に加えて、いくつもの島があるが、四つの大陸に収まりきらなくなった人間たちが、島では一番大きく最西端のバルハーツ島に攻めてきている訳である。
今年に入って、いよいよ人間たちがバルハーツ島の南側にも進行を本格的に攻め始めてきたため、俺の仕事にてんてこ舞いだ。人間たちは今頃、海辺の拠点にでも戻っているだろうから、補給が終わり次第にまた攻めてくるだろう。
こっちも人員や物資の補給に加え、さっき言われた砦の補修もあるため、休みは当分先だろう。ああ、ベッドで延々と寝たい。そんなことを思いながら軍の中を歩いていると、廊下のわきに立っていた、一人の悪魔族の女性が話しかけてきた。
「中将、お説教は終わりましたか?」
ユリシア=フォン=エルミウス。俺よりも頭三つ分も小さく、とても小柄ではあるが、胸に輝くのはまっすぐな銀色の一本角の徽章。中佐の証である。ちなみに、俺の名前にもフォンと入っているが、貴族家の証である。ユリシアは子爵家の三女だ。
白く腰まである長い髪を揺らし、冷徹な目をしているが、知的で麗しい。僅か十六歳で中佐まで上り詰め、魔王軍の新星まで言われている、将来有望な新人悪魔だ。
「まあな。元帥もあんなに怒ってりゃ、そのうち血管キレてぶっ倒れるな。」
「その原因を作っているのは中将ですよ。」
中佐と中将という、大きな階級差があるが、尊敬の念を抱いていないような言動が明らかである。全く、少しは敬ってもらいたいものだ。一応、俺の直属の部下である。
「ユリシア、今すぐ砦に戻って補修だ。次はあの勇者をぶっ飛ばす。」
「頼みますよ。」
そう言って、ユリシアは俺の後ろをついてくる。二人で軍の中を進み、バルコニーに出る。
「なるはやで行くから、しっかりとついて来いよ。」
「はい。」
俺たちは背中に魔力を流すと、ゴキゴキと背中から翼が生えてくる。悪魔の翼は普段、体内に収納しており、魔力を流すことで生えてくる。俺の翼はユリシアより少し大きく、禍々しさが全然違う。これは、魔力量の差などによって変わる。禍々しいく大きな翼が悪魔の中では優れている証拠だ。
翼をはためかせ、大空に飛び上がる。仕事が山積みなため、ちょっと急ぎ目だ。
「なあユリシア、人間たちはどのくらいで攻めてくると思う?」
「そうですね。我々の砦からやつらの拠点は、人間たちの速さで二日ほどなので、再び攻めてくるのは最短で七日でしょう。」
「やっぱそのくらいだよな。よし、五日だ。明日からの五日ですべての準備を終わらせる。」
「かなり厳しいですよ。いいんですか?」
「いいんだ。部下たちはうまく説得するし、俺も加わる。それなら十分に可能だろう。」
いい加減、まじめにやらないと本気で怒られてしまうからな。
俺はスピードをどんどん上げていき、景色はあっという間に変わっていく。
「大丈夫か、ユリシア?ちゃんとついてこれてるか?」
「は、はい。問題ありません。」
ふむ、少しきつそうだな。優秀な若い悪魔と言えど、まだまだ若いユリシアにはこの速さはきついか。
「《プロテクション》」
俺はユリシアに、風よけとして魔法をかける。ユリシアを覆うように、透明な壁ができる。これで風が防げるから、飛びやすくなるだろう。
魔法には、火、水、土、風、闇、光といった属性別に分かれており、先の六つの属性以外にも、勇者なんかが使う聖属性、属性を持たない無属性がある。さっきの魔法は無属性だ。
ユリシアは光属性以外の魔法は使えるが、他は使えない。魔法には個人の適性があり、三つあったら才能がある方だ。ちなみにだが、魔族で光属性や聖属性が使える者は昔も含めていない。ただ例外として、無属性の魔法は練習次第で誰でも使える。
「ありがとうございます。私も早く無属性魔法を覚えたいです。」
「まあ、こればっかりは練習だな。無属性魔法が使えれば、かなり応用がきいて戦略の幅が多きく広がる。早く覚えたいなら、暇なときにでも教えてやるよ。」
「お願いします。早く中将のお力になれるよう頑張ります。」
「そうかそうか。程々に頑張れよ。」
それだけ言うと、ユリシアはニッコリと微笑んだ。それを普段からやれば、周りの印象も変ってくるんだけどな。ユリシアは普段、あまりしゃべらず表情も変らない。そのせいか、彼女の身の回りで親しいと言える友人などはおらず、一人でいることが多い。ただ、彼女はあまりそれを特に気にしておらず、遊ぶ時間が合ったら魔法の練習をしていたいというような、向上心の高い悪魔だ。
そんなユリシアを俺は意外に評価しており、新入りだった彼女の指導を請け負った。
俺は、砦に付き次第、何から始めようかを考えつつ、さっきよりもスピードを上げた。
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