のりことだんまりお客13
「ああ。そう言えば、あなたがた木生り族も大きいのでしたね。わすれていました」
「そのとおり!そして、こうして!」
木生り族は、熟練の騎手のようにさっそうとハゲタカにまたがると
「われら軍人は愛鳥にまたがり戦地におもむくわけです!
私もかつてはこの愛鳥とともに幾多の敵どもをラディッシュでつついてやりました」
(ラディッシュ?)
あとでのりこがメッヒに聞いたら、木生り族は巨大なラディッシュ(ハツカダイコン。季節がずれたらアスパラガス)を槍がわり、キノコを楯がわりにして戦闘をするそうだ。
月の農産物は、どうも物騒なものらしい。
「――やだよぉ。もどりたくないよぉ。あんな冷たくて殺風景なところ、おれはこりごりだぁ。空気は悪くてもエアコンがきいた日本のネットカフェのほうがいいよぉ。まだ新作のVRもためしてないし、コンビニおでんで食べてないタネもたくさんあるんだよぉ。
――いいかげんだまっておれ、この気まま首が!国にもどってつとめをはたすのだ!
いざもどらん!わがなつかしきふるさとへ!」
「キア、キア、キアアッ!」
「――やだよぉ。脳みそが溶けるまでオンライン・ゲームがしたいよぉ。期間限定アイスが食べたいよぉ」
木生り族をのせたハゲタカは空高くまいあがる。
「さらば、さらば――――やだよぉ、やだよぉ」
ハゲタカがさわがしく月にもどっていくすがたは、かぐや姫のお話とちがってぜんぜんロマンチックじゃなかった。
「……あの首のほうはぜんぜん帰りたがってなかったね。むりやり連れかえるようなことして、よかったのかな?」
あるじの問いに番頭は
「さて。わかりかねます。だれにとっても自分自身と正しく向き合うことはむずかしいということでしょう」
「あなたにでも?」
その問いに番頭は、冷然と
「私は問題ありません。自分がすべきことを100パーセント理解しています。そして、これからすべきことも100パーセント理解しています。――さあ、あるじ。のこっている帳簿付けをつづけましょう」
うへ。
月の光はさやかで、雲のはらわたまで照らしていた。




