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あやしの旅館へようこそ!  作者: みどりりゅう


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のりことだんまりお客2

「うん、大好き。だから本当はメッヒにもひもつけて散歩させたいんだけど、あいつったら、それはいやだっていうんだよ」


 綾石旅館の番頭・メッヒは、のりこの父・幹久と契約してはたらく悪魔だった。

 ときおり黒いプードル犬に化けて動きまわるのだが、ひもをつけられるのはいやらしい。

<i|30660>

「……あのおそろしい番頭はんにひもつけて散歩させよ、なんてこと(おも)たんはこの世がはじまって以来、いとはんだけですわ」

 お美和は怖気(おぞけ)をふるうように首をふった。


「なんで?あんなやつたいしたことないじゃん。えらそうにしてるけど『旅館のためだ』って言っときゃ動くやつだよ。チョロイもん」


 メッヒの行動は、旅館のためになることがすべてである。そうして番頭の道をきわめたとき、彼は契約相手である幹久のたましいをうばうことができるからだ。

 しかし、メッヒが番頭の道をきわめることなんて当分ない、とのりこはふんでいた。だから、そのあいだは「せいぜい」うまいことつかってやればいい。


「……ほんに、いとはんは大人物ですわ。その気になればすぐ世界征服できますわ」

 お美和のことばに、


 いとけない主人は

「え~、やだよ。これ以上旅館ふやすのは。メッヒにも言ったけど、あたしにホテル王になる気はないよ」


 もちろんお美和はそういう意味で言ったのではないのだが、深追いはしなかった。

 小学四年生の少女に、あなたは今「ほんとう」に世界を征服できる力を持っていると言ってもしかたなかった。


「――それより、このおみやげみんなよろこぶかな?」


「そら、あるじが()うてくれたんやもの。みなよろこびますわ」


 のりこは映画のかえり、映画館に隣接するデパートで従業員へのおみやげを買っていた。


「でもさ、こんなシュークリームとかで、ほんとうによかった?みんな食べるかな?ユコバックは酒飲みだし……だいたいアンジーなんか人形でしょ」


 旅館の釜たき・ユコバックは火をあつかうのが得意な悪魔で、火酒(ウオッカ)を好む。

 それにかわいらしい女中・アンジェリカ(アンジー)は、精巧なからくり人形(オートマトン)だ。


「そないなこと、気にせんでもよろしいわ。みんな、あるじからの品や言うたらよろこびます。いろんな味のものを買いましたでしょ」


「うん。バニラにいちごに、抹茶、チョコ……ああ、クワクがいたらいいのにね。あの子はチョコが好きだったもの」

 のりこは、すこししょげて言った。


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