のりこと時空の部屋25
「まさか自分の娘にやぶられるとは思っていなかったでしょうがね。……しかし、もし本当にあなたが『心の牢獄』にとじこめられたとしたら、どうするつもりだったのでしょうか?いったん牢獄にとじこめられたら、そこから解きはなつのは作った本人にでも無理でしょうに」
なに?あたし、おとうさんのせいでこんなひどい目に会ったの?
「――でも、こんなみょうなもの、ふつうの人につくれるわけがないでしょう?」
「ですから、ふつうではありませんよ。特異点の辻守りで、なおかつこの私を呼び出し契約するものがふつうの人間のはずがないでしょう。あなたの父親は魔術師です。それもかなり腕ききのね」
おとうさんが魔術師……なんだか、また話がややこしくなってきた。
「この旅館のみょうな設定は、ほとんどあなたの父上がほどこしたものです。細かいことは何も言わず行ってしまったので、私の把握していない部分も多くこまっています。あなたの父と言いその妹といい、まったくあの兄妹は気まぐれです。いったい今ごろどこでなにをしているものやら」
ため息をつく番頭のすがたは、今までで一番人間くさく思えた。
(……もしかして、あたしのおとうさんって、ものすごく悪い人なんじゃないかしら?この悪魔をうまいこと旅館にしばりつけて、自分は好きなことしてる……)
メッヒは腕時計を見ると
「もうこんな時間です。ご予約のお客さまをむかえる準備をしないといけません」
「――よいですか?次にいらっしゃるお客さまは、オーストラリアの虹蛇精霊のご夫婦で、日本ははじめての方々です。そそうがないように気をつけてください。
とくに清潔を好まれますから、瘴気のあとがのこっているなどもってのほかです。廊下はきれいにふきあげましたか?アンジェリカ」
「バッチリですわ」
「お食事の注意点はわかっていますね?お美和」
「わかってますわいな、へえ。土くさいのはさけて、きれいな川でとれた魚をそろえてます」
「お湯の用意は?ユコバック」
「いいぜ!やぶれた底もちゃんとふさがった!」
「ふむ。クワクは玄関前を……」
「はきもうした」
「あたしは?」
「あるじは……そうですね。元気な声でお客さまをおむかえしてください」
なんだ?それ。
でも、けっきょくあいさつがいちばん大事なんだよね。
最近、やっと物怖じせず大きな声が出せるようになった。
「――ようこそ!いらっしゃいませ、綾石旅館に!」
だって、あたしはこの旅館のあるじなのだから。
2025.6.17
「あやしの旅館へようこそ!」の挿絵描き直しは、このepisodeまでで一旦休みます。
かわりに来週6/25ごろから「あやしの診療所ーのんのん先生とぼくー」
の挿絵描き直し再更新を予定しています。よかったらそちらもごらんください。
おたのしみに




