のりこと時空の部屋21
「……なんなの、今の太い腕は?」
目の前で起こったおそろしい光景にのりこがふるえながら声を出すと、
番頭は
「あれは地獄の最下層に住まう巨人です。かつてオリンポスの神々とケンカしたこともある気のあらい連中ですよ。だまされたと怒っていましたから、いまごろルーシェもたいへんでしょう。まあ、自業自得です。フフフ」
メッヒのことだから、地獄に下りたときに巨人たちをたきつけたにちがいない。
のりこは、あの美しい堕天使がどんな目に会っているかと思うと、すこし気の毒になった。
「いったい、あのとびらはなんなの?天国へのとびらじゃなかったの?」
「天国へのとびらですよ。そして同時に地獄へのとびらでもある。さらには、もっとほかの世界とつながることもできるでしょう。この場所は、いわばあらゆる異世界へとつながる人間界の特異点です。
そして、それこそがあなたの先祖がこの地にアチラモノが泊まる旅館をつくった意味なのです。あなたの一族は、代々この特異点を守る辻守。そして、今あなたが持つその鍵は特異点の制御操作具です。
かつてその鍵を持っていたものの名から『ソロモンの鍵』などとよばれています」
なにそれ?またややこしい話がついてきたじゃん。
「そんなむずかしいこと言われても知らないよ!あたし、宿の仕事だけで手いっぱいなのに!」
少女のなげきに番頭は口のはしを上げて
「それでじゅうぶんです。われわれのつとめは、お客さまをおもてなしすることのみです。なにも変わりはしません」
やわらかく言ったが、そのあとは、いかめしく
「――そんなことより、あるじ。またもやあなたは私の言うことを聞かずにかってな行動をとりましたね」
せまる番頭に、しかしのりこは口をとがらせて
「……だってさ、件が言ったんだもん。『黒いつばさを持つものには気をつけろ』って。あなたが飛んでいくから、そう思うじゃない?」
「つばさ?ああ、これですか?」
メッヒは背中に黒いコウモリ状の飛膜を出すと
メリッ
それをはがしとった。
「えっ?なにそれ?」
のりこが目をまるくすると
「これはただのニセモノのつばさ……おもちゃです。私はべつにつばさなど出さずとも空を飛べますが、どうも日本の古いアニメを見ると、悪魔は空を飛ぶときこういったつばさを出すと思われているらしいので、それに合わせていたのです。『デビル・ウィ―――ング!』と。……ヘンでしたか?」
ヘンだよ!そんなまぎらわしいことするから、すっかりかんちがいしたじゃない!




