のりこと時空の部屋20
「きゃっ!」
そのまばゆい光に、のりこやクワクは直視することもままならない。
「ああ、なつかしのわがふるさと……」
よろこびに身をふるわせるルーシェが、その光の中に一歩ふみ出そうとすると
「……なに?」
なんだか、とまどっている。
どうも足を前に進めることができないようだ。
「……どういうこと!?入ることができないじゃない!」
そう言って、じたばたと黒いつばさをばたつかせている。
のりこが横を見ると、番頭がいつものように口をおさえてわらっていた。
「――クククッ。むかしから知性はだれよりもありましたが、やはりあなたはアホですね、ルーシェ。
入口を見つけさえすれば、自分が天界にもどれると思っていたのですか?そんなわけがないでしょう。
かつて、あなたの元あるじが私にこう言いました。『かのものは、私が落したのではない。かってに落ちたのだ』と。
あなたはもはや天上へのとびらがあっても、そこに立ち入ることのできない存在に落ちてしまっているのですよ」
番頭のあざけりに、堕天使はつばさをばたつかせ
「そんなバカな!あたしはルシフェル!『明けの明星』とよばれるもっとも美しく、天界にふさわしいものよ!」
しかしそのことばと裏腹に、まぶしい光をル-シェは一歩も前に進むこともできない。
そして、しまいにはそんな彼を見はなしたようにとびらはバタンと閉まり、金文字の表記が変わった。「PARAISO」から
「……INFERNO?」
「『INFERNO』つまり、地獄があなたにもっとも似つかわしい場所です、ルーシェ。どうぞ自分の居場所におもどりなさい」
そして、ふたたび開いたとびらの向こうから、灼熱のマグマとむせかえる硫黄のにおいがあふれ出た。
「ちがうわ!あたしはもうあんなところにもどるつもりはないわ!」
美しい顔立ちをみにくくゆがめてその場から退ろうとするルーシェを、しかし、とびらの向こうから巨大な腕が出てきてつかみ、ひっぱった。
「いやよ!もうあんなところはいやなの!!」
その声もむなしく、堕天使はその漆黒のつばさをちらし落としながら紅蓮の炎のなかに引きずりこまれ、とびらはまたバタンと閉じた。
すっかりもとにもどった白い空間に、のりことクワク、そしてメッヒがのこった。




