のりこと時空の部屋18
「どういうこと!?」
のりこのさけびに
番頭は、ため息まじりで
「……ですから、またもやあなたはだまされたのですよ、あるじ。まったくあなたは何度だまされたら気がつくのですかねぇ」
「でも、そんな!だって今度はクワクが……」
しかし、見ると蜘蛛の精は、のりこから距離を取って立ち、顔も合わさない。そして
「あるじ、申しわけありませぬ……」
しぼり出すように言う。
そこには、いつものサムライらしさはすこしもなかった。
「えっ?そんな……ウソでしょ」
「ウソではないようですね。どうやらクワクは、そこの堕天使に買収されたようです」
予想外のうらぎりにことばも出ないあるじに対して、漆黒のつばさを持つ堕天使は
「ふふ、だましてわるかったわね、おじょうちゃん。けど、あたしはどうしてもこの場所に来たかったの。
あのとびらの向こうの世界に行く……いや、もどるためにね」
うっとりとした顔で中空にうかぶ白いとびらを見つめる。
「もどりたいっていったいどこに?あのとびらはどこに通じているの?」
のりこの問いに
メッヒは、かかげられた金文字を読んだ。
「PARAISO……ほかにパラダイスとかヘヴンなどとも言いますね。つまり、あれは天国……天上界へのとびらです」
天国!
「そう。なつかしのわがふるさとよ!」
すっかり興奮に目をかがやかせる堕天使に、
メッヒが冷ややかに
「はて。かつてその上の世界にあきあきして下りて来た、と私にうそぶいた方のことばとも思えませんね。
あなたはすっかり下界での気ままな暮らしを楽しんでいるのかと思っていましたが、ちがったんですかね?」
と、言うと
ルーシェ……もといルシフェルは首をすくめて
「こちらも悪くはないけど、さすがにもうあきてきたの。そろそろ上にもどりたいわ……」
そしてつづけて
「――そりゃ、あなたはいいわよね、メッヒ。いやしき悪魔の身のくせに自由に世界を飛びまわり、はてはわれらがあるじとも気軽に会話を交わすあなたには、あたしの気持ちなんてわからないでしょうよ!」
思いがけない堕天使の強い口調に、のりこはおどろいた。




