のりこと時空の部屋17
(やっぱし!あの黒犬はメッヒだった!)
おどろくのりことちがって、ルーシェはあらわれた番頭にあわてもせず
「あら、メッヒ。思ったより早かったわね。もっと時間がかかると思っていたのだけど」
「……じゅうぶんかかりましたよ。なぜだか向こうに入ったとたん、うるさい下っぱ悪魔や魔人どもが全員、私につっかかってきましてね。おかげで小回りのきくすがたをとらなくてはいけませんでした」
そう言って、番頭はふきげんそうに身だしなみをととのえる。
「とはいえ、もう彼らをしずめたのでしょう?」
「ええ。それはもう、なにせ彼らとは天地開闢以来の知りあいですからね。『話せば』わかりあえます」
その両こぶしからは、まるで溶岩となぐり合ったみたいにはげしい熱気が立っていた。
「――彼らが言うには、こんなことをしたのは、だれかさんに『そそのかされた』からだそうです。私の足止めをしたら地獄の苦役を楽にしてやると言われたとかで」
「あら、いったいだれかしら?そんないけないことしたのは」
おかしげに言う天使をいまいましげにスルーすると、メッヒは少女に向かった。
「――それで、いったいあなたはなぜこんなところにいるのですか?あるじ。あなたには待機しておくようにと言ったはずですが」
そのするどい視線にたじろぎながらも、のりこは負けずに
「それは、ここにあなたがとらえた人間のたましいがあるって聞いたからよ。開放してあげるんだから!」
番頭はそのことばを聞くと、天使に向きなおり
「そうやってあるじをここにつれだしたのですか?あいかわらずあなたはタチがわるいですね――それに、その白いつばさはなんのおふざけです?
あなたのつばさが白いはずないでしょう、ルーシェ……いや、堕天使・ルシフェル!」
(――えっ?)
メッヒのことばに、ルーシェは、そのおそろしいまでにうつくしい顔立ちをにたりと笑みまげると
(なんてこと!)
その真白に照りはえていたつばさが根元から漆のように黒く染まり、同時にその身をつつんでいた神々しいかがやきもあやしい黒光りへと変じた。




