のりこと時空の部屋11
ルーシェは
「……どうやら、あの触覚にアカシック・レコードにつながる機能を持たせてるみたいね。
こりゃ、なかなか手ごわいわ」
「アカシック・レコードって、なに?」
のりこの問いに天使は
「この世に起きたあらゆる出来事を情報として保管しているところよ。そこに接続できれば、どんな情報でも知ることができるわね。
たとえば、あなたが最後におねしょしたのはいつかなんてことまで、こいつはすぐに検索することができるってことよ」
「えっ!そんなヤダ!」
「「オマエガ、最後ニオネショヲシタノハ、去年ノ……」」
「言わなくていいから!」
だめだ。このカナブンは、どうやらちまたのAIスピーカーなんかよりずっと性能がよいらしい。
この世に起こったことをみんな知っているものが答えられない質問なんて、のりこには思いつかなかった。
しかし、そんなふつうの少女に対して、うつくしい天使はちがったようだ。
ルーシェは一歩前に出ると、ほほえんで
「ここはあたしの出番のようね。こう見えてあたしは、かしこさにおいては天界でも一番、って言われてたのよ。――カナブンさん、じゃあ、あたしの出す質問に答えてね。
なにも漠然とした問いではないわ。イエスかノーで、正しいほうを答えてちょうだい」
「「ナンデモコイ」」
「じゃあ質問よ。『あなたは私の質問にノーとこたえる?』」
(――なんだ、それ?)
そんなかんたんな質問、問題にすらなっていない。
別にイエスで答えてもノーで答えても、どっちでもいいんじゃないか、とのりこは思ったが、見ると、カナブンは触角をぷるぷるふるわせて考えている。
「「ムムム。ソノ問イニハ、ドウ答エタラ、ヨイ?
『イエス』ト答エルト『あなたは私の質問にノーとこたえる?』ニ合ワナイカラ、ダメダ。
カトイッテ『ノー』ト答エルト『あなたは私の質問にノーとこたえる?』ノ通リダカラ、『イエス』ニナッテシマウ。
……ナンダ?『イエス』『ノー』ドチラデ答エテモ、マズイコトニ、ナッテシマウゾ。
ドウイウコトダ?ソンナ理屈ニ合ワナイ、コトガアルノカ?」」
なんだかよくわからないけど、オートマトンはパニックになってしまったようだ。
「「『イエス』ガ『ノー』ニ、『ノー』ガ『イエス』ニ……イッタイ私ハ、ドウスル?私ハ、ドウナル?」」
おかしなことを口走ったと思ったら、カナブンの触角はぐでんぐでんにふり回って、しまいにはちぎれた。頭からは、煙が出ている。
「「――マイッタ。私ニハ、答エラレナイ。第二ノ試練ハ、破ラレタ」」




