のりことあやしい旅館7
廊下につながる階段の上から声をかけながら下りてきたのは
(わあ、きれい)
浴衣すがたに長い金髪をなびかせた超美人だった。
(あたしが今まで生きてきて見た人のなかでいちばんきれいじゃないかしら?……って、あれ?)
少女が見とれたその人の、はだけて見える胸もとは、たしかに男のそれだった。
「やあ、ルーシェ。こちらは冬彦さまの娘さん・のりこさまですよ。――おじょうさま、こちらは長期滞在客のルーシェです。二階にご宿泊いただいています」
「……こんにちは」
と、あたまをぺこりと下げるのりこに、
その麗人はまるで宝塚の男役のように波打った金髪をなびかせて
「こんにちは。――へえ。じゃあ、やっと見つかったのね。春代はさぞよろこんだことでしょう?――あんたとちがって」
(メッヒさんがよろこんでないって、どういうことだろう?)
泊り客の発言にふしんをおぼえてのりこはメッヒを見た。
しかし番頭はあいかわらずの無表情で
「いいかげんな軽口はつつしんでもらいたいものですね、ルーシェ。私は一従業員としてのつとめをはたすのみです」
ピシャリと言った。
ルーシェは美しい唇をとがらせると
「まったく……いったい、いつからあんたはそんなにまじめくさくなってしまったのかしら?むかしはそれこそ、この宇宙すべてが、ただ自分を楽しませる冗談にすぎないとばかりにふるまっていたのに」
「……万物は移り行くもの、ですよ。あなたのような堕落した放浪者と堅気の労働者をいっしょにしないでください」
番頭のものがたい言いぐさに
麗人は
「まったく、これだもの」と首をすくめると「……ああ、それよりもこれ。わたしておくわ」
そう言って帯のうしろからとりだしたのは、なにやら、うす銀色の封筒だった。
まんなかにみょうなツノみたいな模様が印刷されている。
「ああ、いつものですね」
メッヒはそこから書類を取り出し一瞥すると
「――ふうん。こんなものたちが来てるんですか?七…人組ですか」
最後の部分は、のりこにはばかるように言った。
「ええ、どうもとても連携の取れている連中みたいね。『組織』としては十分に警戒してほしいそうよ」
(組織?)
少女にはちんぷんかんぷんなことを言いのこすと、麗人はいつのまにか持っていたビール瓶を片手に、二階へともどっていった。
そのさらさらとしてうつくしい金髪をうっとりとした目で見送ると、のりこは受付カウンターに入るメッヒにたずねた。
「……あのひとは外国のかたですか?」
「外国?……ああ、まあそうなるでしょうね」
メッヒは書類を見ながらてきとうにこたえた。