のりこと時空の部屋7
ルーシェは廊下や地下への階段の入口に、光りかがやく槍を何本も突き立てた。
そのかがやきに、瘴気は近づくこともままならない。
「これで上への瘴気の侵入はふせげるわ。なにも心配はいらない。あたしたちは自分のすべきことに専念できるわ」
自信まんまんの天使に、
のりこは
「でも、メッヒがどこにたましいをかくしているかわかっているの?あたし、あいつの個人部屋なんて知らないよ。あいつはいつも仕事してて、ねてるところも見たことない」
「あいつは悪魔だから、ねむったりしないの。それに個人の部屋にたましいをかくしたりもしていないわ。たましいをかくしているのは、あいつがこの旅館のなかでもっとも気にかけているところよ」
メッヒが一番目にかけているところ……受付カウンターかしら。そこをきちんと整理整頓していることが旅館の信用度を上げるって……。
それとも意外とトイレとか。お手洗いをきれいにしてるかどうかで、お客さまのリピート率がぜんぜん変わってくるって言ってたもんな。
しかし天使は
「そこは、メッヒがあなたの来る前から大事にしていたところ。それこそ、先代あるじにさえ手をぬかさせなかったところよ」
(あのズボラな春代おばさんに?でもあの人は、ふだん自分の部屋にこもってゴロゴロしてただけで、なにも用事なんて……あっ!)
のりこは目の前にある大きな置き時計を見直した。メッヒに言われて毎日、のりこが鍵……ねじを巻きなおしているものだ。
「そう。メッヒは毎日、旅館のあるじにこの時計のねじを巻かさせていた。人間のたましいを閉じこめておくには、とてつもない力がいる。あるじが毎日ねじを巻くことによって、この時計にはその困難が可能になっているの」
そんな仕組みがあるなんて。
「でも、この時計のどこにたましいがかくしてあるっていうの?なんにも見えないよ」
ゆれる振り子を見ながらのりこが首をかしげる。
「この時計には秘密の空間があるのよ」
空間?またか。この旅館はそんなのばっかしだ。




