のりこと時空の部屋5
その口調にひっかかったのりこが
「ほんぎょう?なんのことですか?メッヒって、うちの番頭以外になにかしてるの?」
と、たずねると
ルーシェはいぶかしんで、クワクに
「なに?まだこの子に教えてやってないの?」
と言った。
給仕をする蜘蛛の精は
「……それがしのあずかり知るところではござらぬよ」
と、目をそむける。
天使はおかしそうに
「ふ――ん、じゃああたしから言ってあげる」
と、のりこに向きなおると
「あなたも、この旅館に来てもう二週間ぐらいになるからわかったと思うけど、あの番頭はふつうじゃないわ」
それはもちろん気づいていた。魔物から何度となく助けてくれたし、あやしい術も見せている。
だいたい地獄に行って、そこのものをおさえると言っているものがふつうであるはずがない。
「メッヒは人間じゃないわ。あたしが天使であるのと同じ……モノホンの悪魔よ」
「あくま」
(――やっぱり、そうか)
のりこはメッヒが悪魔だと聞いてもそれほどおどろくことはなかった。うすうす、そうじゃないかとは思っていたのだ。
ただ、はっきりそれを口にすることには、ためらいがあった。
もうすでにこの旅館に来てからいろんな魔物や魔女、神や妖怪のたぐいに出会って慣れたとはいえ、さすがに自分の保護者となっているものがほんものの悪魔、だということには抵抗があったのだ。
そんな少女の複雑なむねのうちを知ってか知らずか、天使は話をつづける。
「そして、もともと自分が地獄の住人であるメッヒにしてみたら、自分以外の悪魔がこの世に出てこられるのはこまるのよ。自分の獲物がへるからね」
「えもの?なんですか。それ?」
「悪魔が欲しがるものといえば、むかしからただひとつ。人間のたましいよ」
ガタッ。
クワクが急須をすべらせた。
「ルーシェどの、その話をするのは無しでござるよ」
「そうはいかないわよ。この子に関係のない話ではないからね」
どうもクワクも事情を知っていて、そのうえでだまっていたみたいだ。
「悪魔は自分を呼び出した人間の望みをかなえるかわりに、そのたましいをうばう。それが唯一、そして最大の本能よ」
にがにがしそうに言うルーシェに
「そんな!メッヒが人間のたましいをうばうっていうの?」
のりこがさけぶと
「そうよ」
「でも、メッヒはうちの旅館の番頭だよ。だれよりもまじめにはたらいている。そんなひどいことするはずが……」
「あいつがまじめにはたらいているのは、自分を呼び出した人間とそう契約したからよ」
「けいやく?」
そういえば、メッヒとはじめて会ったときそんなことを……
「……契約って、いったいだれと?」
少女の問いに
天使は
「決まっているでしょう。あなたのおとうさんよ」
そのことばに、のりこは固まった。




