のりこと時空の部屋4
「なんとっ!」
従業員たちの助けもおよばず、少女の危機かと思われた、
その瞬間!
一階の廊下一面にまばゆいばかりの白い光がそそがれて、黒い瘴気が苦しげに消え去った。
そこに二階への階段からのんきな声で
「――あらまあ、なんだか朝からにぎやかねぇ。ゆっくり朝寝もしてられないわ」
あくびまじりで下りてきたのは、長期宿泊客のルーシェだった。
そのしどけなく寝みだれた浴衣すがたの背中からは、白くかがやく大きなつばさが生えている。
その神々しいすがたに、
のりこが思わず
「ルーシェさん……まるで天使みたい」
とつぶやくと、
美貌の客は不服げに
「あら、その言い方は失礼ね。これが見えない?」
あたまの上を指さすと、そこにあるのは光の輪だった。
「あたしはモノホンのエンジェルよ」
「たいへんねぇ。朝からもう、こんなにわちゃくちゃしちゃって」
天使はクワクの入れたお茶をすすりながら言った。
お美和やアンジーはおのおの言いつけられた仕事をしていて、ラウンジにはいない。
そのあえかな手をふるうたびに白くやわらかな光が放たれ、下からあふれ出た黒い瘴気をかき消していく。
「客にこんな掃除のまねごとをさせるなんてこまったものね。今いる客があたしだけだからいいようなものだけど、クラレーヴァなんかだと猛りくるうわよ。まったく、こんなときにあの番頭はどこへ行ったのかしら?」
メッヒはいい顔をしないだろうが、たすけてもらったのだ。
のりこは、天使のお客に正直に事情を言うことにした。
「すいません、うちの釜の底がぬけました。メッヒはそれで今、下に行ってます」
ルーシェはそれを聞くと、まゆをひそめて
「やぁねえ。やっぱしこれは地獄からもれ出した瘴気ね。じゃあなに?メッヒは今、地獄に行って、下のものが上がってこないようにしてるわけ?」
すべてお見通しらしい客の問いに、あるじがだまってコクンとうなずくと
「ふうん――。まあ、しかしそれは、ただしい処置ね。地獄の住人に上がってこられたら、天使のあたしとしてもたいへんだもの。じゃあ、あの番頭には釜のふたが直るまでせいぜいがんばってもらいましょう。
なあに、心配しなくても、あの番頭なら地獄のものぐらいひとりでふせげるわ」
お茶を一口すすると、つづけて
「――なによりメッヒとしては、よけいなものに出てこられては自分の本業がやりにくいから、がんばるでしょうよ」
なんだか皮肉げに言った。
2025.5.27
再更新(挿絵描き直し)は、このepisodeまでです。
次回更新は6/4を予定しています。
おたのしみに。




