のりことあやしい旅館6
「当主としての仕事をまっとうなさってないのは事実ですから」
メッヒは加えて言った。
こんな体のわるそうな人にそんなことばを投げるだなんて、番頭はどうやら見かけどおり「きつい」人らしい。
しかし、おばは慣れているのか、まるで気にせず、うれしげに
「でも今日からは事態も変わっていくでしょうね。なんといっても、こんなかわいらしい姪っ子がこの旅館にいてくれることになったのだもの。こんなよろこばしいことはないわ」
そう言って、のりこの手を取ると
「今日からこの旅館があなたの家よ。なんでも好きにしてもらっていいからね」
熱っぽい目で、会ったばかりの姪の顔をのぞきこんだ。
そのいきおいに面食らったのりこが
「そんな……好きにって、あたし来たばっかりでまだなにもわから……」
と、遠慮するのを
言いもやらせず
「いいえ!なんなら今すぐ、すべてをあなたの……」
病人らしからぬ力で姪の手をにぎりしめ、たたみこむのを
「コホンッ!」
メッヒがせきばらいをして、たしなめた。
「……あるじ、のりこさまはつかれておられます。それぐらいになさってくださいまし」
おだやかな言葉にこめられたきびしさに、
春代もすこし気はずかしくなったらしく
「そうね、なにもあわてるようなことじゃなかったわ――じゃあ、あなたのことはすべてメッヒにまかせるから、どうかゆっくりくつろいでね」
そう言って、また横になった。体調がよくないのだろう。
そんな主人に冷ややかな視線をあびせつつも、おじぎだけはきっちりすると、メッヒはのりこをつれて部屋を出た。
「……まったく、こまった女だ」
廊下に出て番頭がつぶやいたことばにのりこはひっかかった。
どうも、あのおばと番頭のあいだはそれほどうまくいっていないらしい。旅館のあるじとしての職務を全うしていないということが不満らしいが、それはあのいかにも弱そうな体ではしかたないのではないか?
「――おばさんは、いったいどこがわるいんですか?」
のりこの問いに、
メッヒはしばらくだまっていたが
「……そうですね。あの方のご病気は大変重いもので、どんな名医でも治すことがむずかしいものです。あなたがいらしてくださったことで快方に向かうかと期待しているのですが、もしかしたら『もっと』ひどくなるかもしれません」
表情のこもっていない声で言うので少女も心配になる。せっかく会った親戚なのだから元気になってほしいのだけど……。
「あ~ら、メッヒ。こちらのかわいらしいおじょうさんはどなたかしら?」