のりこと魔女の店17
魔女はぼうぜんとしている。
「――時間です。これで勝負は『うち』のあるじの勝ちです」
メッヒの冷めた声に、
のりこは自分の立場が分かった。
やった!かけに勝った!
「でも、なんで?あたしはたしかに左ポケットに入れたはず?」
のりこの疑問に
美しい娘は
「それは、これですかしら?」
そう言って、かぶったボンネット帽のすきまから鍵を取り出した。
「アンジェリカ!どういうことだ!?」
たけりくるう魔女に、
娘は首をかしげると
「見たとおりですわ、おくさま。あたくしはこちらのおじょうさんが鍵をポケットに入れたのに気づいたので、それを帽子のすきまにかくしたのです」
そのことばに魔女はがくぜんとして
「おまえ!?……さては、うらぎったな!
しかし、おまえはあたしの言うことにはさからえないように設定してあるはず……」
「あたくしはなにもさからっていません。ただ鍵をうつしただけです。とにかくあなたの負けですわ、おくさま」
平然と言う娘に、
魔女は烈火のごとくいきりたって
「なんてことをしやがる、この小娘!あたしの『道具』にすぎないおまえがよくもこんなまねを!今すぐひどいせっかんをくわえてやるよ!」
と、さけびちらしたが
「――おっと、そうはいきません」
そこで口をはさんだのはメッヒだ。
「あなたは先ほど、約束したはずです。あなたが負けた場合、あるじは私たちを取りもどすだけでなく、この店に置いてある品をひとついただけると」
その冷静な口調に、魔女はふるえた。
「あ、あんたまさか」
番頭はのりこに向かって
「あるじ。そちらのアンジェリカ嬢は、かの天才人形師ドロッセルマイヤーが手がけたオートマトン……つまり、からくり人形です。せっかくだから、それをいただいて帰りましょう――いやはや、あるじ。あの人形師の作品を手にするなんて、いい勝負をしましたねえ」
きげんよさげなメッヒに、のりこはびっくりだ。
(アンジェリカさんがお人形!?そんな、ホンモノの人間にしか見えない!)
「あんた、アンジェリカを持って行く気かい!?こいつはあたしがユダヤの魔術師から若がえり薬のレシピとひきかえに手に入れたせっかくの……」
ふるえて抗議する魔女に
番頭は
「かけの結果は絶対だぞ。ヘクセ」
その、つめたくきびしい声音に魔女はちぢみあがり、だまりこくった。




