のりこと魔女の店16
「だから、あたしは番頭ではなくあんたと勝負をする必要があった。
メッヒがどんな悪だくみをしようと、あんたが知っているのなら、あたしはそのことを見ぬくことができるからね。
蜘蛛のこぞうがサイコロに化けたことも、あんたの心を読んで知ったのさ。
――しかし、今回あんたが鍵をかくした場所はよく考えたものだと思うよ。心が読めなかったら、あたしも気づかなかっただろう」
魔女のことばに、のりこは油断をしないようにした。
もしかすると、ただのはったりを言ってのりこの動揺をさそっているかもしれないからだ。
(心なんて読めるはずがない)
希望をかけるのりこに魔女は、しかし
「『心なんて読めるはずがない』と思っているね?でも、読めるのさ――アンジェリカ。おまえ、自分のドレスの左ポケットを探ってみな」
つかっている娘に声をかけた。
その瞬間、のりこは自分の敗北を知った。
「……しかし考えたね。この子はアンジェリカが部屋に入ってきた、そのすれちがいざまにこっそり鍵をポケットに落としこんだんだよ。まるで『スリの反対』じゃないか」
魔女はつづけて
「たしかにアンジェリカもこの部屋の中にいる以上、そのポケットに鍵をかくしてもルール上はかまわない。しかし感づかれたらおしまいなのに、よくもまあそんなあぶなっかしいことができたものだ。
――だいいちアンジェリカ。おまえも鍵を入れられたのにも気づかないなんてにぶいやつだね。あとでせっかんしてやるよ」
おどけるように言う魔女に対して、のりこはまっさおで
(――ああ、なんということだ。すべて気づかれていたなんて。せっかく必死の思いでやってみたのに……。
これで、あたしは引きついだばかりの旅館を他人の手にうばわれてしまった。ほんとうに家なし子だ)
声も出せない少女を後目にヘクセは
「とにかく、これであたしがあの旅館のあるじだ。さあ、アンジェリカ、ポケットから鍵をお出し」
しかし、指示を受けた娘は首をかしげている。
「なにをしている?時間が来ちまうだろう。はやく左のポケットを探って鍵をお出し」
落ちる砂がのこりわずかになって、いらいらして言う魔女に対して
「――これですか?」
アンジェリカがゆっくりとポケットの内側をつまみあげると、そこには……
なにも入っていなかった!
そして、それと同時に砂時計の砂が下に落ちきった。




