のりこと魔女の店11
のりこはこまっていた。
魔女のうしろにはメッヒが立っており、その横のテーブルには虫かごに入れられたサイコロ・クワクと、ライター・ユコバックがいる。
「クククッ。策士、策におぼれるとはこのことだね、メッヒのだんな。いや、今ではあたしのしもべのメッヒ。あんたがこのこしゃくな虫のこぞうをサイコロに変えたのなんて、あたしにはお見通しだったのさ」
「それがしは虫ではござらん!ほこり高き蜘蛛の精ですぞ。ちゃんと肢も八本ありまする」
かごの中から不満の声を上げるクワクを無視して
ヘクセは
「あたしらのルールでは、インチキはいくらしてもかまわない。ただ、バレたらおしまいだ。ペナルティとして、この虫のこぞうもあたしがいただいておくよ。文句ないね」
「虫ではござらぬ!」
のりこはなにも言いかえすことができない。勝負に負けたのはまちがいないからだ。
元番頭は沈痛な表情でのりこに頭を下げると
「もうしわけありません、元あるじ。すべて私の失態です」
と、うなだれている。
そんなしおれた番頭のすがたがのりこにはショックだった。いつも、自信と傲慢の上に皮がついたみたいにふるまっているのに。
そんな新たな下僕のすがたを見て魔女はいかにも気分がよさそうに
「――ああ、いい気味だ。まさか、あんたをこうして自分の手下にできる日が来るだなんて思いもよらなかった。何千年分かの胸のつかえが一度に下ったようでせいせいする。せいぜい今からこきつかってやるよ!」
そんな新たな主人にむかってメッヒは
「……そう、うまくいきますかね?」
ボソッと言った。
その口のきき方にヘッセは
「なに?それはどういうつもりだい?しもべになった以上、あんたはもうあたしの言うことにはさからえないはずだ」
「それはそのとおりです……が、あなたは私たち従業員三名を手に入れたぐらいでことを終える気はないでしょう?」
のりこにメッヒの言ったことの意味はわからなかったが、魔女はそうでなかったらしい。
口のはしをひん曲げた笑みを見せると
「さすがはあたしの元あるじだ。考えていることがよくわかっている。あんたたちがユコバックを取りかえしに来た時から、あたしの目的は別にあったのさ」
なにを言いたいのかわからないのりこに対して魔女は
「おじょうちゃん、いやさ綾石旅館の主人。どうだね?あたしともう一番、勝負してみる気はないかね?」
「もう一番……」
「そうさ、あんたが勝ったら番頭と虫のこぞう、そして釜たきを返そう。あたしが勝ったら、あんたの持っているその鍵をいただきたい」




