のりこと魔女の店10
「そうかい――では、せっかく日本なのだから『丁半』にするかね?」
勝負を受けることを告げたのりこに、ヘクセはニタニタしながら言った。
「……ちょうはんってなに?」
「サイコロを二つつかう、古くから日本にあるゲームです。
壺とよばれるカップに入れたサイコロを下にふせ、そのかくれた目がどうなっているか当てるものです。ふたつのサイコロの目が合わせて2、4、6……などの偶数ならば『丁』。3、5、7……などの奇数なら『半』となります」
「親はあたしがつとめるよ。おい……アンジェリカ。おまえが壺をふるんだ」
先ほどお茶を給仕した、お人形さんのようにかれんな女の子が「はい」とうなずき、小さな丸テーブルを持って来て、その前に立った。
「ほんとうはゴザの上でやったほうがムードが出るのだけど、ここではそうもいかない。ゲーム・テーブルの上でやらさせてもらうよ」
「それはかまいませんが、どのサイコロを使うかはこちらで決めさせていただきますよ」
「ああ、好きにしな」
メッヒは箱の中から、てきとうに選ぶふうで
「これがいいですかね?」
と二個のサイコロをとりだした。
そのとき、ひとつのサイコロの、のりことメッヒにだけ見える面にクワクが顔を出してほほえんだ。あいかわらずおどけものだ。
のりこは、魔女たちにサイコロをすり替えたのがバレるのではないかと冷や冷やした。
「じゃあ、勝負と行こう。アンジェリカ」
「はい」
少女は緑のフランネル生地をしいたゲーム・テーブルの上に、籐でできた壺と二個のサイコロをおくと
「――それでは、どなたさまもよろしゅうございますね」
にわかにりんとしたもの言いで、左手の人差指と中指のあいだ、中指と薬指のあいだにサイコロをはさんだ。
そして右手に壺を持つとそれらを交差させ、全員にタネもしかけもないことをしめすと
「では、ごめんなすって……入ります」
右上に高く上げた壺の中にふたつのサイコロをほうりこむと、それらは中でカラコロと音をたてる。
アンジェリカはすばやく手首をかえし壺をフランネル生地の上にふせると、一二度かるく前後にゆらして……ぴたっと止めた。
のりこが思いもよらないフリル少女の粋なすがたに見とれていると、ヘクセが
「おじょうちゃん、目はすぐに言わなきゃいけないよ」
と、言うのであわてて
「あっ!じゃ、じゃあ……丁!」
クワクがうまく壺の中で動いてくれるのだから、どっちを言ってもだいじょうぶなはずだ。
少女はそれを信じてさけんだ。
(ちゃんとしてよ、クワク!)
それに対し魔女は、ニタリとわらって
「じゃあ、あたしは半だ。わかったね、アンジェリカ」
うながすと、
美少女は無言でうなずいて
「丁半そろいました……では、勝負!」
かけ声とともに壺を切る(上げる)と……
「えっ?」
サイコロの目は三と六だった。つまり
「この勝負、三六の半!」
アンジェリカが声高らかに宣言すると、
魔女は
「やったぞ!これであんたはあたしの僕だ!」
メッヒにむかってさけんだ。
見ると番頭は「ううっ……」と、うめきながら両手で顔をおおっている。
のりこは彼のそんな情けないすがたを見たことがなかった。
テーブルをふたたび見ると、サイコロのひとつが、ぐったりと変形して、クワクにもどった。
「いけませぬ……それがし、シビレもうした」
体をぴくぴくさせていた。
魔女はわらった。
「な――に。前もって、すこし壺の中に防虫剤をふっておいたのさ。なにかわるさをする虫がいたらいけないと思ってね」
のりこは頭が白くなった。




