のりこと魔女の店9
「バクチにチート(インチキ)はつきものです。
特に異界のかけごとでは、インチキは見ぬけないほうがわるいとされています。その場で見ぬけなければ文句は言えない、というのがルールです。
要はバレなければ、なにをしてもかまわないということです」
「じゃあ、なおのこと勝負したらだめじゃない!」
少女の訴えに番頭は、ニヤリとして
「ですから、こちらもインチキをします。あの女がサイコロで勝負をいどんでくるだろうというのは予想してましたのでね」
そう言ってふところから出したのは
「……あっ!さっきのサイコロ!」
あのガなんとかという神さまの牙でできたサイコロのひとつだった。
「いったいどうしたの?ぬすんだの?」
「そんなことはしていません。これはガネーシャのサイコロではありませんよ」
「えっ?」
番頭の手にあるサイコロに見えたものはぶるぶるふるえて
「――あいや、あるじどの。それがしを見あやまるとは、残念でござるな」
サイコロの「一」の面にうかんだ顔は
「クワク!いったいなんで?」
目をまるくしたのりこに、サイコロ・クワクは
「エヘン!それがし、こう見えて変化の術は得意でござってな。旅館を出る前に番頭どのに命じられて小さくすがたをかえ、ひそんでおったのでござるよ」
おどろくのりこに番頭は
「よろしいですか、あるじ。勝負の前に私がスキを見て、ヘクセの持つサイコロとクワクを取りかえます」
「そして、それがしが勝負の状況に応じて、あるじのつごうよい目を出してごらんにいれまする。これであるじの負けはありませぬぞ!」
「そんな!インチキじゃん!だいじょうぶ?そんなことして」
のりこの心配に
「言ったとおり、インチキは見ぬかれなければよいのです。相手がしてくるとわかっているのに、こちらがなにもしないでは負けてしまいます。だいじなのは勝つことです」
「それがしの変化を見ぬけるものなど、めったにござらぬ。なにせ、かつてはわが父をもあざむいた術ですからな」
のりこは不安だったが、番頭とクワクの絶対の自信にのることにした。
従業員をすくうため、と言われると旅館のあるじとしてはよわいのだ。




