のりこと魔女の店8
「ほう。私……ですか?」
「ああ。あんたを手下にしてこき使うことができれば、さぞ気分の良いことだろう」
「なるほど。むかしの仕返しというわけですか。……それで、かけをするとしてその勝負の内容は?」
「せっかくだから、これなんてどうだい?」
そう言って魔女がラワン材の高級そうな箱から取り出したのは、いくつかの白くかがやくサイコロだった。
メッヒは目をかるく見ひらくと
「おや、なつかしい。こんなものをまだ持っていたのですか?
これは聖天……ガネーシャという象の神の牙で作ったサイコロで、たいへん貴重なものです」
神さまのきば!
「むかし、あんたに言われて、あたしがインドの死神からぶんどったものさ。そういや、あのときもあんたはなにもほうびをくれなかった」
「あれは、あなたが私が集めるように命じた死者のたましいの数をごまかそうとしたからです。
しかも、あなたはそのサイコロを私にだまってくすねた。怒るのはおかどちがいです」
「ムムゥ……」
自分の不利に気づいた魔女は、ごまかすように声をあらげて
「ケッ!そんなむかしのことはどうでもいいよ!とにかく勝負を受けるのかい?受けないのかい?」
番頭は考えるふうを見せると
「われわれはじっくり相談しなければなりません。あるじ、いったん席をはずしましょう」
「あっ?うん」
メッヒはのりこをつれて店の外に出ると、まわりを囲うように手をふった。
瞬間、その場の空気全体がふるえたように思えた。
「――いま目に見えない幕を張りました。これで、なにをしても言ってもあの魔女にさとられることはありません」
そう言うと、つづけて
「では、あるじ。もうしわけありませんが、あなたにはあの魔女とのサイコロ勝負をしていただきます」
「そんな!だめだよ!サイコロだなんて、あたししたことが無い」
メッヒの身がかかる大きな勝負を受けられるはずもない。
当然の少女の訴えに、しかし番頭は冷静に
「ふむ。あなたは私がなんの勝算もなく、こんな勝負を受けるとお思いですか?」
「えっ?」
「私はユコバックがあの魔女におさえられていると聞いた時から、こんな展開になると予想していました。なにせ、あの魔女はむかしからバクチ好きで、しかもとても強いのです。
とくに彼女が人間相手にバクチで負けているのを私は見たことがありません。よくはわかりませんが、私にもかくす特殊な能力によってインチキをしてきます」
「えっ!?なに?インチキするの!?そんなのなしだよ!」




