のりこと魔女の店7
メッヒはため息をついて
「――やはりそうですか。しかたありませんね。では私が相手をつとめましょう」
あっさり言った。
(えっ、だいじょうぶ?)
のりこは心配になった。
たしかにこの番頭なら勝負ごとにも強そうだけど、どうなるかわからないのがかけというものではないだろうか。
しかし、そんなやる気の番頭に女店主は
「おっと、そうはいかないよ。なにせあんたには今までさんざんだまされてきたからね。あんたみたいな悪党とまともに勝負なんかできやしない。
あたしが勝負をしたいのは、そこにいるおじょうさんだ」
「えっ、あたし?」
急な話の展開に、のりこは目を白黒させた。
「そうさ。あんたがあの旅館の新しい主人なのだろう?つまり、ユコバックをとりもどしたいのは本来あんたのはずだ。あんたとなら勝負をしてやってもいいよ」
「そんな!こどもがかけごとなんてしちゃいけないよ!」
さけぶあるじの横でメッヒは
「――ふうむ。たしかに人間同士ならこのようなかけはいけません。しかし、これはちがいます。ヘクセ……人ならぬ魔女との勝負です」
魔女!はっきり言っちゃったよ。
そりゃ、そうじゃないかと思ったけどさ!
「とはいえ、あなたのような少女に勝負をまかすのは不安ですねぇ」
「ふふっ。あたしはどっちでもいいがね。まあゆっくり考えな。……おい、お茶!」
魔女のことばにあわせて、奥からひとりの、かわいらしい少女がお茶をはこんできた。
――いや、ほんとうにかわいい。年齢は中学生ぐらいだろうけど、レース地のフリルだらけのドレスにボンネット帽をかぶり、銀の皿にティー・セットをのせてあらわれたすがたは、まるで、むかしのイギリス絵本からぬけだしたようだ。
少女は青色の目をくりくりさせながら、湯気が立つ熱々の紅茶を、魔女のぶんだけ入れた。
「ほう、彼女が新しい召使ですか?」
「そうさ。あたしの言うことにしたがう便利な娘だよ」
魔女はズズズズッとけたたましく音をたてて紅茶を飲むと、バリバリッとココア・クッキーをかんだ。
(おいしそうだな)
のりこがうらやましげにおやつを見ているのを番頭は無視して
「うちのあるじがかけに勝ったらユコバックを返してもらうと。では、負けた場合はどうなるのですか?」
問うと、魔女は歯につまったクッキーをそのするどい爪でほじくりながら
「――そりゃなんだね。せっかくだからあんたがほしいね」
と、番頭を指さした。




