のりこと魔女の店5
怒る女店主に、メッヒはつめたく
「あれは、やむない話として決着がついたはずです。あの学者の債務はすべておじゃんになったのですからね」
どうやら、メッヒとヘクセ……ガマガエルおばさんはふるい知りあいらしい。
しかもメッヒにつかえていたとは!
むかしのことを根に持っているのか、ヘクセはかっかときているが、メッヒはまるで気にしていないようすで、店内を見わたすと
「あなたは、あの飼っていたサルたちも手放したのですか?」
「へっ!やつらを食わしていくのもたいへんでね。そのかわりいい召使をやとったさ」
「ふうん……まあ、それはどうでもいいが、とにかくこちらとしては、ユコバックがいないとちょっとつごうが悪いのだよ。素直に出してもらえないかねえ」
「知るかね!あんたのつごうなんか!」
メッヒはあごをなでると
「そう言われても、彼がいないと釜に火をつけるものがいなくてね。――かわりに、こんなライターで火をつけられたらよいのだが」
そう言って雑貨だらけでごみごみとしたチェストから手に取ったのは、フライパンをもった悪魔の装飾の、かわった卓上ライターだった。
番頭はそのライターにむかって、まるで知りあいのように
「……ふむ。いったい『おまえ』はどうしてこんなところで油を売っているのかね?おまえのすべきはタバコでなく、ふろ釜に火をつけることだろう?――おいっ!」
と、そのライターを床にたたきつけると……
なんということだろう!
その場所に転がっているのはライターではなく、ひとりの大柄な男の人だった。
「いったい、こんなところでなにしてやがる、ユコバック!なまけてやがると、また地獄に送り返してやるぞ!」
はじめて聞く番頭のはげしいどなり声に、のりこはおどろいた。
男はぶるぶるふるえて
「ゆ、ゆるしてくれよ、メッヒ。ちょっとしくじっちまったんだ」
手を前に組んであやまっている。
いまは無精ひげで見るかげもなかったが、剃ってさっぱりしたら、さぞ男前だろうと思う彫りの深い赤毛男性だった。
メッヒはつづけて
「どうせ、また手遊みをしたんだろう!……まったく、おまえをあの貪欲王からゆずりうけたのは失敗だったか!?」
ののしる番頭に、のりこは
「てずさみってなに?」
と、たずねた。
番頭はいまいましげに
「手遊みとはバクチ……つまりかけごとのことです。このユコバックはギャンブル好きでしてね。禁じたのに、こっそりこんなところでやっていたのです」
「バクチって、なに?お金をかけたの?」
たしか、日本では決まったところ以外でかってにおカネをかけたりしてはいけなかったはずだ。




