のりこと魔女の店4
その意外と広い部屋には、ぼんやりとしたランプのあかりのもと、一面にかわった置物や雑貨が、それこそゴミ屋敷のように雑然と置かれていた。
かけたガラスグラスやさびきったスチール缶、ただ川から拾ってきたようにしか思えない石ころ、てんでまちまちに時間が進む時計たち。目つきのわるい聖母マリア像に、ツノの三つ生えたシャレコウベ。趣味がわるいとしか言いようがなかった。
店の奥には、火こそ入れていないが大きな三脚に鍋がつられてある。ずいぶん年季が入っているのか、さびついていた。
その横に置かれた大きな置物がめずらしくて、のりこは目を止めた。
(なんだろう、これ?ガマガエルかしら)
のりこより大きい背たけの精巧な細工だけど、なんでわざわざこんなぶかっこうなものを……とふしぎに思って、しげしげとながめていると
ぎょろり
にわかに、そのガマガエルが目を開け、にらみつけたので
「ヒッ!」
のりこが番頭の袢纏のすそをつかむと
「――失礼なお客だね。人の顔を見て悲鳴を上げるだなんて、ふとい根性じゃないか」
そのガマガエル像だと思ったものは……じつは顔じゅうイボだらけの老女が目をつむってこしかけていたのだ。
メッヒはのりこに
「なにもおそれることはありませんよ。このものは、ただ見てくれがちょっと怪異なだけです。けっしてあなたをとって食べようとするものではありません」
その冷静な口調に、ガマガエルふうの女性は
「おうおう。だれかと思ったら、これは近所のボロ旅館の番頭どんじゃないか。どうしたのかしらね。かくもいやしきこのようなところに、偉大なるあなたさまが、おとずれあそばすとは」
「――」
メッヒは女の口調に明らかに立腹していたが、それは自分に対する慇懃無礼よりも、旅館のことをボロと言ったことに対してのものらしかった。
「ふむ。私とて今さらこのようなところに来るつもりは無かったのだが。なにせ、こちらにうちの従業員がひとり世話になっているという情報が入ってね。それでやむなく来たのだ」
「へえ……従業員。そりゃ、いったいなんのことだろうねぇ」
鼻の頭から毒汁のようなあぶらをたらしながら目をすがめる店主に
「私にシラを切る気か?ヘクセ。かつてのあるじに対して」
メッヒがするどく言うと、
老女は反抗して
「なにがあるじだい、ヘンッ!たしかにあたしはかつて、あんたのもとではたらいていたが、今はもうフリーだ。
むかし、あんたに言われてオイボレ学者に薬を調合してやったのに、なにもほうびをくれなかったことはわすれてないよ!」




