のりこと魔女の店2
(おもてむきって、どういうこと?)
「とらえられているって……」
「ええ。ユコバックのやつがおちいりそうな事態です。――しかし、あんなものでも、うちの従業員の一人であることはまちがいありません。目下のところ大浴場は閉じたままですからね。たすけ出す必要があります。あるじ、ついてきていただけますか?」
「えっ?うん。行く行く」
大浴場がつかえるようになるならうれしい。シャワーじゃなくて大きなお風呂にゆったりつかりたい。
それになにより、おそろしい名簿つけからにげられるならよろこんで。
のりこはきげんよく袢纏を脱いだ。
「あの店に行くとなると、私にも少し用意がいりますね。あそこの店主は手ごわいですから。――おいクワク、ちょっとこっちに来てくれ」
「はい、でござる」
ふたりはとなりの従業員部屋に入ると、しばらくしてメッヒだけが出て来た。
「おまたせしました。まいりましょう」
「あれ?クワクは?いっしょに行かないの?」
「彼には彼の仕事があります。お美和、あとはまかせたよ」
「はいなぁ」
陽気な料理人をおいて、あるじと番頭は旅館を出た。
かむの商店街は、シャッターがおりている店の多いさびれた商店街だ。
すれちがう自転車をよけながら、メッヒはのりこに説明をした。
「ユコバックは、もともと私の知り合いの下ではたらいていたものです。それを火や油をあつかうのが得意というので、私がこの旅館の番頭になったときにやとったのです。釜たきとしてはたしかに優秀ですが、ひとつこまったくせがありましてね。おそらく、そこをヘクセンキュッヒの店主につかれたのでしょう」
「この手紙はいったいだれが送ってきたのかな?そのユコバックっていう人?」
「つかまっているという彼にこんな手紙を出すことは無理でしょう。だいいち彼にこんなきれいな字は書けません。事情を知った外部のものが知らせたとみるべきです。
しかし名前をかくしているということは、ふかくはかかわりたくはないのでしょう。ヘクセンキュッヒを敵に回すのは、だれでもいやでしょうから」
そんなおそろしい人がやっている雑貨店にこどもをつれていくなんて……のりこは件の予言以来、信用しきっていない番頭のあとをいぶかしくついていくと
「着きました。ここです」
「えっ、ここ?」
その雑貨店は、ただでさえものさびしい商店街の、さらにはじっこにあるちいさなちいさな店だった。
向かいにあるゲームセンターもあまり人がおらずさびしいけど、それと比べてもひどい。
枯れかけのツタが前面をおおっていて、一見すると空き家かと思う。店舗前にちいさな立て看板が置いてあるので、かろうじて営業中とわかるぐらいだ。
入口らしき扉のわきには、首をつられたテディベア人形とさかさにつったキューピー人形があった。
雑貨屋というけど、全然かわいくない。ふだんならまちがいなく素通りする外観だ。




