のりこと魔女の店1
「あるじどのあてに、封書がとどいてござるよ」
「えっ、ほんとう?――メッヒ、ごめんね。そういうことで名簿のつけ方はまたあとで」
帳場で、番頭からめんどうな宿泊客名簿のつけ方を教わってパニックになりかけていたのりこは、よろこんでクワクから手わたされた封筒を開けた。
「なんでござる?ご学友からの恋文でござるかな?いまどき手紙とは古風でござるな」
「ちがうよ」
「それでは、なんでござる?まさか果たし状?あるじ、だれかにうらまれておられるのか?」
「ちがうよ、だまってて」
いいかげんな軽口ばかりたたく蜘蛛の精をすておいて、のりこは手紙をだまって一読すると
「なんだろ、これ?」
まゆをひそめた。
「いかがされましたか?」
たずねる番頭に、
のりこは手紙の内容を声に出して読みあげた。
「綾石旅館の主人に告ぐ。
おまえの旅館の従業員・ユコバックは、かむの商店街にある雑貨店『ヘクセンキュッヒ』にとらえられている」
送り主の住所も名前もない。その流暢なペン字筆跡が、文面のそっけなさとふつりあいだ。
「なんだろう?これ」
のりこのくりかえしの問いに、
番頭は手紙を受け取りながめすがめつすると
「ふむ、上質なぶあつい便箋ですね。インクも上等だ。それにこれは……万年筆ではない、ほんものの鵞鳥羽のペンで書かれていますね」
「鵞鳥のペン?すごいメッヒ、そんなことまでわかるの?シャーロック・ホームズみたい。じゃあ、いったいだれが書いたかもわかるの?」
「いいえ、ちっとも」
番頭のそっけない言い方に、のりこはズッコケそうになった。
(なんだよ、つかえない番頭だ。あたしの感動を返してほしい)
あるじの落胆に
番頭は
「ただ、ユコバックの居場所を私たちに教えようとしているのはまちがいないようですね」
「ユコバックさんって、たしか……」
「ええ。行方不明になっているうちの釜たきです。どこに行ったかと思っていましたが、まさかあの店にいるとは知りませんでしたね」
「その……へくせんきゅっひってお店のこと、知ってるの?」
「ええ。おもてむき、雑貨と喫茶をしている店です」




