のりこと霧の部屋14
「あら、いややわ。ほんにポルコさまったら、ええかげんなことばっかり言うてから!」
「ホッホ。そんなことはないよ。あなたのようなレディにウソはつかない」
綾石旅館の三十畳からなる中宴会場では、陽気な豚頭のおじさん・ポルコさまが、おだんご髪に作務衣すがたとなったお美和さんのお酌をきげんよさそうに受けていた。
その前には、彼らが「ふたり」でたいらげた一〇〇人前にもおよぶ大量の焼き栗の皮が積まれている。
浴衣に身をくるんだ巨大な豚の精霊・ポルコさまは、すでにはちきれんばかりにふくれたおなかをさすって
「ホッホ。ほんとうに、ほれぼれする食べっぷりだ、セニョリタ・オミワ!あなたといっしょにタンバの栗をむさぼりつくしたくて、わたしはまた日本に来たのです!さあ、もっともっと食べてください」
それに対してお美和は、二五一五個目となる栗をその裂けた口の中にほうりこみながら
「いややわ、むさぼるなんて下品な豚さんね!」
ポルコさまのりっぱな豚鼻をツンツンして、てきとうにあしらっている。
そんなふたりの底なしの飲食をあきれて見ているのりこに、空のお銚子と栗の皮をかたづけながらメッヒは解説した。
「――偉大なるポルコ(パドーレ・ポルコ)は、スペインの獣を治めている方で、灘の日本酒と丹波の栗をこよなく愛しておられます。気前がよくて大変ありがたいお客さまですが、自分と同じように飲み食いできるものがそばにいないとふきげんになるのです。
そして、うちのスタッフでポルコさまの相手ができるのは、お美和だけなのです」




