のりこと叔母(続)3の22
「だいじょうぶ?」
のりこの問いに、
妖精は
「寝ているだけさ。ただショックが大きいから……」
その様子に、番頭は手をこまぬいて
「エアリアル。私がもどるまで、この部屋に入るのは遠慮してほしいと言っておいたはずですが」
「しかたないだろう、メフィ……メッヒ。きみがもどるのが遅いから、ランコに危機がおよんでしまったんじゃないか。ぼくが嵐を引き起こしていなかったら、時間稼ぎもできず、すべて手遅れになっていただろうよ」
どうやら、ふたりは知り合いだったらしい。
それならそうと初めに言ってほしかった少女あるじに、
妖精は
「きみを通じてぼくのことがウェイトリーに知られることを避けたのさ。ぼくは、かつてきみのお母さん……ユリコを失った。ランコまで失うわけにはいかない」
そうやって、大事な養い子の面をつぶさにながめていると
「……あら、あなた……エアじゃない?」
叔母が目を開けて、つぶやいた。
「おおっ!ぼくのかわいいオーキッド!やっとわかってくれたのだね!」
妖精は自分の名が呼ばれたことに大喜びで、その場でとんぼを切りながら空を舞う。
オーキッドとは(イギリスから見て外国産の)「蘭の花」のことで、彼が幼い蘭子につけた愛称だ。
エアリアルは、喫茶店で蘭子が自分のことを認識しなかったことにひどく傷ついていた。それぐらい、彼女のことをかわいがっていたのだ。
叔母は、いまだ夢うつつの様子で
「のりこちゃん……あたし、また迷惑をかけたのかしら?」
問うた。
迷惑をかけたなんて、そんな言いかたはやめてほしい。
彼女は今回……いや、もともとなにも悪くないのだ。人が良すぎるのはいいかげんやめたほうがいいと、姪は叔母に言ってやりたい気分だ。
(そんなだから、悪いやつにつけこまれるんだよ!)
蘭子は、遠くを見るぼんやり顔で
「……そうか。ずっと忘れていた。あたしは、おとうさまを手にかけたのね」
「おねえちゃん、やめて!おねえちゃんはなにも悪くないんだよ!」
また自分を責めるのか……と心配するのりこに、
叔母はにっこりほほえんで
「――わかっているわ。おねえさまは幼いあたしが耐えられないと思って、記憶に封をなさったのね。でも、あたしももうおとなですもの。自分のやったことは受け入れられる。あたしは実際、父に逆らい死に追いやった……けれど、そのことに後悔はないわ。あのときの父は、まともじゃなかったもの。倒さなければ、百合子おねえさまの身が危なかった」
たんたんと述べると、つづけて
「もしそうだったら!あなたが、この世にいなかったことになっていた……そんなの耐えられないわ!だから、あたしは自分のしたことになにひとつ後悔してないの」
ほほえむ叔母に、姪はだまって抱きついた。




