のりこと叔母(続)3の14
「しかし、その屈辱まじりの苦難も今日までです。ついにわたしは偉大な御方を呼び出すのです」
顔をゆがめてわらうラヴィニアに対して、
のりこは眉をひそめて
「それって、邪神……セテボスってやつでしょ?やめてよね、そんなわけわからないのを呼ぶなんて!」
健全な少女としての正論を述べると、
老女は
「なにを言いますか、旅館のあるじ。あなたこそが先日、あの方々をコチラに召喚しかけたのではないですか!?」
あざわらうように、ことばをかえす。
(へっ?あたしがそんな危ないことするわけないじゃない……そんなの……って、あっ!)
「……もしかして、置き時計?」
ニセ・ランコの罠にかかったのりこをかばって蘭子が(一度)殺されたとき、のりこは怒りのあまり旅館のラウンジにある置き時計を動かして、異世界への扉を開けそうになった。 そのときコチラに来そうになったのは、メッヒが言うところの「特別おそろしい存在」だったが
「……まさか!あれが、あなたの崇める邪神なの?」
そんなまずいものを自分が呼びかけたなんて、少女は思ってもいなかった。
意地の悪い番頭の、こども相手のおどかしだと思っていたのだ。
しかし、老女はいたって真剣で
「わたしの崇める御方をふくむ広きかたがたです。あなたが扉を開きかけたときは、その大いなる気配を感得した世界中の信徒がふるえました……しかし、それは阻まれました」
そう。あのとき、たしかにメッヒがのりこをとどめて扉は閉ざされた。
「不要なことをあなたがたは行いました……その一方、希望も生まれました。古来、この地の封印は特別堅固で、われら一般的な魔術関係者には手が出せないと推定されていましたが、その鍵の保持者であるあなたに影響を与えれば、かの御方たちを召喚する未来が出てきたのです。
しかし、現実としてはその戦略をとった三番目……キャリバンを名乗らせたわたしの息子は、失敗の穴に落ちました。彼は直接あなた、そして時計を破壊することによって強引に扉を開けることを試みました」
あっ。あの廊下で急にさわってきたやつ、あれってやっぱりキャリバンだったのね!
「あの子は、先走ってすべて自分ひとりの手柄にしようとしました……しかし事態は安楽な道を選びませんでした。置き時計を壊し開けようとした愚かな子は、単純に滅びました」
なんと!あのキャリバンが溶け消えたのは、あの時計に手を出したせいだったのね!すごい……というかおそろしいわね、旅館の力!
それにしても、息子の死について語るシコラクスの口調はおそろしいほどあっさりしている。実の子が亡くなったことに、彼女はなにも悲しさなど感じていないのだ。
むしろ感嘆するように
「やはり有名な『銀の鍵』をも超える『金の鍵』と『時計』……古代の賢者が能力を尽くしてほどこしたという特別な封印は、一般人の手には重すぎます。その遺物を扱うことが可能なのは、あなたにいたる血脈のみです」
言うと
「そんな特別な血を含まないわれわれでも取扱可能なのが、この本です。全てでなく、わたしたちの神のみを呼び出すには、この本の文言と適当な『犠牲』があれば、それで必要十分です」
視線をやったのは、地面に横たわる
「!ランコおね……」
――ドンッ!!
次の瞬間には、轟音が響いた。




