表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやしの旅館へようこそ!  作者: みどりりゅう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/350

のりこと霧の部屋12

 のりこはけげん顔で

「こわい?なんで?だって、あなたはあたしをおそおうなんて思ってないでしょう?」


 先日、そして今さっきも、のりこはグールや人面犬におそわれておそろしい思いをしてきた。しかし、そのおそろしさはけっして彼らの見てくれから来たものではない。

 自分に対して向けられた食欲がおそろしかっただけだ。


 だから自分をおそう気配がちっともなかった人面の牛には、こわさなどちっとも感じていなかった。

「かじらない?」と聞いたのも、半分は冗談だったのだ。


 のりこはもともと、どんな生きもの……虫や爬虫類、猛獣に対してでも、その見た目だけで恐怖や気もちわるさをおぼえたことは一度もない少女だった。

 だから、このみょうちくりんな旅館にも、すぐに慣れることができたのだ。


 そんなまっすぐな目で見てくるのりこを

「あんた、かわった子やねぇ……」

 と、しげしげと見つめなおした口裂け女は、気がつきなおしたように

「その袢纏……あんた旅館のもん?けれど、ただのニンゲンが……まさか!?」

 おどろく女に


 のりこは

「うん……じゃない……はいっ!あたくしが綾石旅館の主人をつとめさせていただいております、のりこでございます!」

 メッヒに教わったとおりに自己紹介をすると、ペコリッと頭を下げた。


「のり……じゃあ幹久ぼっちゃまのおじょうさま?」

 のりこの素性を知った口裂け女は急に低姿勢になって

「あら、いややわ。そうとは知らず、とんだ粗相そそうをいたしました。あたくしはこちらにつとめておりました、お美和ともうすいやしい女でございます」

 指をそろえて頭を下げた。

挿絵(By みてみん)

「そんな。あたしこそ急に声をかけてごめんなさい」

 おとなに頭を下げられてきょうしゅくする少女に


 お美和は

「それより、なんでまたおじょうさまがこんな場所に?ここは『たそがれの()』。わすれられた過去の存在たちのために、あなたのお父さまが用意してくださった部屋ですぇ」


 ウシさんの言ってたとおりだ。

「それは聞いたけど……でも、なんであなたまで引っこんでるの?だって、あなたは旅館ではたらいてたんでしょう?ぜんぜん過去の存在じゃない。

 あたしは、あなたに従業員としてもどってきてほしくてやってきたの」


 のりこの願いに、しかしお美和は顔をしかめて

「――いくらおじょうさんの願いでもそれはお断りします。ウチはもう世間……とくにニンゲンの前に顔は見せへんと決めたんどす」


「なんで?」

 少女の問いに


 お美和は、しばらくモジモジしていたが、そのあと、おもいきったようにさけんだ。

「ウチは人間のことが好きなんどす!……そやのに人間は、だれもウチのことを好いてくりゃしません。ただ人恋しうて声をかけただけやのに、ウチがちょっと口開けてわらうと、みな逃げだしてまう!

 ひどいわ!なんも、わるいことしてへんのに!ウチが人間をおそうなんてデマやのよ!そんなおそろしいこと、するわけないやないの!」


 口のなかの肉を見せて心のたけをはきだすと、つづけて

「つきあった人間もみんな、ウチの正体を知ったとたん逃げてしもた……この顔を見ておそれへんかった人間は幹久ぼっちゃまだけ。そやからウチはおつかえしたんだす。でも、そのぼっちゃまも旅館を出てもうて。ウチにはもうはたらく理由がありません……引っこんでます」

 そう言ってマスクをはめなおそうとするお美和に、


 のりこはさけんだ。

「でも、それならあたしだって、あなたのことこわくなんて思ってないよ!おとうさんのためにと思ったんなら、その娘のあたしのためにもはたらいてよ!」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ