のりこと叔母(続)3の10
いたいけな、しかしするどい声が響き、父親を気圧した。
退った鬼三郎の前に立つのは、今までのりこの横にいた幼女だった。
「きさま!」
「蘭子!いけない!あぶない!」
そんな姉の静止も聞かず、
幼い妹は
「――おねえさまをいじめちゃだめ!」
父親をにらむと、ふたたびことばを発す。
“O, wonder!
How many goodly creatures are they here!”
(すごいでしょ!
すばらしい子たちがこんなにいっぱい!)
そのことばとともに、幼き蘭子の目の前にたくさんの光り輝く異形のものたちが並ぶ。それらは……
(精霊っぽいけど……そうか、あれが式神?――なに?ランコおねえちゃん、あんなことできたの?)
少しは魔のありかたに理解がおよんできたのりこは、幼い叔母の尋常ならざる力がわかる。
父親は
「おのれ、蘭子!わしが仕込んだ式神をわしに向けるか!?おまえまで邪魔だてするとは!?姉妹そろって、この恩知らずのクソ小娘どもが!もろとも死ぬがよい!」
恥も外聞もない邪鬼の顔になると
“Rumble thy bellyful! Spit, fire! spout rain!”
(腹いっぱいに響かせろ!火を吐け!水を吹け!)
さけび、杖をふるう。
“Nor rain, wind, thunder, fire, are my daughters,
I tax not you, you elements, with unkindness.
I never gave you kingdom, called you children,
You owe me no subscription. Then let fall
Your horrible pleasure.”
(雨も、風も、雷も、火も、娘ではないから
責めたりせぬ、この親不幸などとは。
わしはおまえたちに何も与えなかったし、子とも呼ばなかった、
気遣いはいらぬ。さあ好きなだけ暴れて
そのおそるべき喜びを満たせ)
わが子たちに容赦ない雨風雷火の呪詛を浴びせる。
それに対して、幼女は泣きながら
“How beauteous, mankind is. O brave new world,
That has such people in’t.”
(なんて美しいの、人間って。ああ、すばらしき新世界、
こんな人たちがいるなんて)
なんとも皮肉な台詞をさけぶと、それにそって光る式神たちが雨風雷火を蹴散らし、父親を突き破った!
「――ぐはっ!」
地面に転がった父親は、百合子と蘭子の姉妹に対して、とても父親が向けるものとも思えぬ恨みのこもった眼差しを向けると
「……この、くそあまっ子どもめ!覚えていろ!おまえたちには、ろくな死に方をさせてやらぬ!どちらも、自分の大事なものを守って死ぬ運命になるのだ!」
うらめしい声で
“Accursed be that tongue that tell me so,
For it hath cowed my better part of man.”
(呪われろ、そのような口をわしにたたくものは。
わしの侠をくじくものめ)
呪詛を残す。




