のりこと叔母(続)3の7
そのことばに、男は頭をふって
「それこそならぬ!上娘が家を出た以上『あれ』でも無いと、この家が絶える」
ずいぶん冷淡な言いぐさだ。
なんとなくだが、はたの幼女も気落ちしているのがのりこにはわかった。
ラヴィニアが、彼のことばをせせるように
「ほほほほほ……そんなもの、どうにでもなるじゃございませんか。跡継ぎなら、あなたさまがまたどこぞの女腹に種をまけばよい。……なんなら、あたくしがご協力いたしますよ」
なまめかしく指を這わすと
「はなれろ!このけがらわしい邪神の妾め!」
幼女の父親は声を荒げるが、
女はその悪口もまったく意に介さず
「ほほほほほ。そのけがらわしい力を、だれよりも欲しいくせに。まったくこまった強欲さんね……」
まるで舞台女優のように
“Your face,my thane,is as a book where men
May read strange matters.
(あなたのお顔は、殿さま、まるで本のよう。それでは
なにを考えているか読まれてしまいますわよ)
To beguile the time,
Look like the time,bear welcome in your eye,
Your hand,your tongue.
Look like th’innocent flower,
But be the serpent under’t.
(時勢をあざむくには
時勢に合わせて歓迎しないと。その目と、
手と、口をつかって。
一見、無邪気な花のように、
実は、その下にひそむ蛇のように)
She that’s coming
Must be provided for; and you shall put
This night’s great business into my dispatch,
(もうあの子は来ますわよ。
迎えてあげないと。あたくしに
今夜の大仕事はおまかせくださいましな)
Which shall to all our nights and days to come
Give solely sovereign sway and masterdom…
(そうすれば永遠に続く権力と支配が
あなたとあたくしのもとに訪れます……)’’
蛇のようなことばを男にからませる。髯を撫づるその指先に
「……わかった。あの子はおまえにくれてやろう」
父親は、あっさりとおそろしいことを述べた。
(実の子を!?なんてひどいことを言うの、あのおじさん!)
幼女も、自分が見放されたことがわかったのだろう。青ざめている。
「そうと決めたら、あやつがもどるのを待たず探しに行くぞ。どうせまた砂浜でぬいぐるみ遊びだ、ばかばかしい」
動こうとする冷酷なおとなふたりの姿を見て
(まずい。この子をかくさないと!)
のりこが幼女を逃がそうとした、そのとき……




