のりこと叔母(続)3の6
その一聴きびしきことばに、白髪白皙の美女がなんら痛痒を感じていないのは明らかで、艶然とほほえむと
「……あなたさまは、先祖の因縁あるあたくしの声に耳をかたむけ、この島に滞在することをお許しくだされた。それはすなわち、あなたがあたくしどもが崇める偉大な神の力に興味がおありだったからでしょう?」
そのことばに、男は
「――セテボスか」
どういう感情からかはわからないが、うめくようにつぶやいた。
女はわらって
「あなたの祖先の魔術師は、われらが神の真名を憚ってそんな偽名をつけたのでしたわね?彼はその力をおそれてわが祖先をも排した……
しかし、あたくしにはわかっております、偉大な殿さま。あなたが怯懦な祖先と異なって、勇気ある御方だということを。あなたさまは、魔道の深奥を極めるためなら異教たる我らが神をもおそれず飲みこむ剛毅な御方!……そうですとも!正しい選択をなされば、あなたの力は格段に増して他の家を圧しましょう!」
しばらくの沈黙ののち
「……それは、禍王や玉蟲の家を超えるほどか?」
はばかった低い声音の問いに
「ええ……それどころか、それこそ『かむのの三獣』をも従える力を!」
応えた女のことばに、
男は目を見開いた。
「三獣!あの禍王家の暴君・龍雄が目が合っただけで震え上がり、恥も体面もなく逃げかえったというあの妖獣どもをか!?」
ラヴィニアは、さらに凄艶に
「――ええ。あなたさまには、その資格がおありです」
繊手を首に回す。
「ふぅむぅ……」
女は、つづけて
「前回、あたくしが産んだ子はうまく育たなかった。偉大な御方の血を引くことに傲り高ぶり、母たるあたくしの言うことをまるで聞かず、結局、敵対者に殺された!
……今度は違います。いまお腹にいるこの子は、あたしの言うがままに動かして、今度こそ偉大な御方……神を現界に引き寄せます!あなたさまには、その協力をしていただきたいのです」
うったえる声に
「その代償に、わしになにを求める?神の妻たる巫女よ」
豊かな鬚を爪くりながら問うと、
冷ややかに
「……おわかりでしょう。むかしもいまも、召喚には贄が必要」
男は眉根をよせて
「……やりたくとも、上の娘はやれんぞ。あの親不孝ものは、男にたぶらかされて家を出た」
そんな父親が発するとも思えぬことばに、
妖女は口の端を笑み曲げて
「なにをおっしゃいます!あなたにはもう一人娘御がおありじゃありませんか?」




