のりこと霧の部屋11
のりこが人面牛に言われたとおりに道をまっすぐ行くと、たしかに高速道路の高架があった。
ただ、車が通る気配はない。
人気もなくうらさびしい霧のなか、どこからか
――しくしく
女の人が泣いている声がした。
目をこらして探すと、暗い高架の下、赤いコートに白いパンタロンというハデないで立ちの、髪の長い女性がこちらに背中を向けて立っていた。
(――ああ、やだなあ。いかにも、っていう感じだよ)
のりこはその女性 (らしきもの)のうしろすがたに、いやな予感しかしなかった。なにせ今日は、うしろを向いているものに声をかけてロクな目に会っていないのだ。またおそいかかられでもしたら最悪だ。
タイミングよくクワクやメッヒが来てくれないかと、まわりを見わたすが、どうもそんな気配はない。
(……やだなあ。でも、しかたないか)
根がマジメな小学四年生は、旅館のあるじとしてのつとめをまっとうすべく声をかけた。
「――あのう、すいません」
その声に反応して、ゆっくりとふりかえった女性は、その顔を白い大きなマスクでおおいかくしていた。
だまりこくっている相手に少女は危険を感じながらも、勇気をふりしぼって
「あなたはだれ?もしかして、お美和さん?」
問うた少女に対して女性は
「――あたし、美人?」
ぎゃくに問いなおしてきた。
こっちの質問に答えないで急におかしなことをたずねる人だと思ったが、たしなみのある少女であるのりこは、失礼にならないよう
「マスクをされていたらわからないです」
と正直に答えた。
女性は、しばらくだまっていたがおもむろに
「……じゃあ、これでは?」
とマスクを外し、ニタッとわらった。
その口は!耳せせまでくわっと裂けて、肉の内側がまっかに見える。
世にもおそろしい口裂け女だ!
のりこは目を見開き、かたまったまま女を見つめていたが、しばらくすると
「……う――ん。きれいだけど、口の中はちょっと腫れてるね。歯周病かな?歯医者さんに行って診てもらったほうがいいんじゃない?」
さめた口調で答えた。
口裂け女は、おどろいたようすで
「あんた、あたしがこわないのん?」
と、たずねた。
どうやら彼女は関西出身らしい。




