のりこと叔母(続)3の3
おなじころ、クワクも砂浜……波打ち際を歩いていた。
「――とほほ。それがし水の中は不得手でござるによって、あの大波には参ってしまいまする。すっかり濡れ蜘蛛でござって、あるじともはぐれてしまいもうした。はたして、あるじは息災でござろうか?
おーい!あるじ、おりませぬのか!?忠義者のクワクは、ここにおりまするぞ!
……やあ、おらぬ。どうもこのごろ、それがしの卦は大殺界にでも入ったようでして、やることなすことすべて裏目に出ておりまする。
あるじの大事な叔母上さまであるランコさまに粗相いたしたうえ、電子蜘蛛でもしくじりもうした。そのうえ水に投げ出されたあるじを見失うとは、面目もまるで立ちませぬ……。
ええぃ!こうなってはもはや我が身など無用の長物、このまま何処なと消えてしまおう!
……とは参りませぬ。
一度は信頼を裏切った不埒なそれがしを、ご温情によりお許しくだされたはあるじでござる。今一度再会していかなる形でもお役に立たねば、わが肢を一本切り落として諭された父・アナンシの心ざしにも背くことでござる。
……いやはや、それにしても砂ばかりでござるなぁ。おーい!あるじ、おりませぬか!?クワクはここにおりまするぞ!
…………ややっ!あれにあるは、ありゃ人の子ではござらぬか!?
あれがあるじであったならば一大事!番頭どのに合わす顔も失せまする!」
波打ちぎわに倒れる少女を見つけた男衆は、駆け寄り抱き起こす。
「ええぃ、しっかりなさいませ!――むむっ?あなたさまはあるじのご友人!たしか、お名前は美桜さまでござったな!」
ふたつ団子結びの少女を歓待したのは、つい先ごろのことだ。
友人が宿泊することに、あるじがいつになくぴりぴりして従業員への当たりも強かった。
(それがしのことをバケモノ呼ばわりしておられた。あのときのあるじは、ちょっといやでございましたな)
思い出しながら揺らすと、
少女はうっすら目を開けて
「……うむ?……なんじは何者?」
現代を生きる少女らしからぬ、時代がかった返答をする。




