のりこと叔母(続)3の1
かみなりと、いなびかり。大嵐。
のりことクワクは大波の上、板につかまっている。
「――クワク!」
「ここですぞ、あるじ!ご無事か!?」
「無事じゃないよ!なんで、旅館の中であらしにあわなきゃいけないの?ずぶぬれだよ!」
消えたランコを追って置き時計のなかにはいった主従は、そこが波荒れすさぶ大海原(水が塩っ辛い)であることに心底おどろいた。
クワクが必死にあるじをつかんで泳いでくれたのと、波に浮かぶ木板を見つけつかまることができなければ、ふたりとも溺れ死んでいるところだ。
前回この時計の中に入ったときには、もちろんこんなことはなかった。
ぜんまいじかけのメカニカルな部屋だったはずだ。
思いもしなかった理不尽な環境に不満が爆発するあるじに、
男衆は
「さて、こればかりは知れませぬ!この旅館はまったくもう!前から方度ないものですのでな!……ややっ!これはいかぬ!板が!」
ふたりのつかまる木板が、波の勢いにあいだでひび割れる。
「やだっ!クワク、はなれちゃうよ!」
のりこは手をのばすが、もう届かない。
「あいや、あるじ!こうなってはもうお別れでござる!息災を祈りまする!なんとしても生きて、また陸でお会いいたしましょう!」
「ああっ、クワク!クワク!死んじゃだめだよ!」
「それがしも、こんな海でぷくぷく死ぬのは御免でござる。蜘蛛らしく、土の上でぴきぴき乾いて死にとうござる!」
別れた少女と蜘蛛男衆は、それぞれ波に呑まれる。
Come unto these yellow sands,
And then take hands;
Curtisied when you have,and kissed,
The wild wave whist,
Foot it featly here and there,
And sweet sprites bear
The burden. Hark,hark…
Bow-wow,bow-wow,bow-wow…
(いでませ。黄色い砂浜に
互いに手を取り
見合わして口づけすれば
荒波もだまりこくる
優美に踊れば
妖精たちも囃しだす
お聞きよ、お聞き……
バゥワゥ、バゥワウ、バゥワウ……)




