のりこと叔母(続)2の2
じゃあ止められないな。
話の要領をさっぱり得なくて、わけがわからないけど、この番頭が旅館を離れてまで調べなきゃいけないなんて、本当にまずいことに決まってる。
「じゃあ、行ってらっしゃい――あなたも気をつけてね」
あるじのことばに、
番頭は深々と頭を下げて
「はっ。わがままをお許しいただきありがとう存じます……それと、申し訳ないですが出張中、私はあなたに連絡を取ることも難しいでしょう」
えっ、そうなの?
「はい。なにせあの大学のセキュリティは厳格ですので、調査のあいだ、外部と連絡を取ることが許されません。ですから、そのあいだは旅館のことを一切、あるじにおまかせするしかありません」
えっ、そうなの?……それって、ちょっと不安だなあ。
なんだかんだ言っても、この悪魔番頭無しで旅館を差配するのは、少女あるじには荷が重い。
番頭も
「私とて心配です……今は、特にランコさまのことが気にかかります」
声をおさえて言った。
おねえちゃんが?
番頭はうなずくと
「率直に申し上げて、あの方の状態はいまだ不安定です。そもそも、天使の奇跡による復活を経た人間のデータは圧倒的に少ないですからね。今後どんな不調があるかわかりません」
そりゃ、なにせいっぺん死んでよみがえったんだもんね。ふつうの病み上がりの比ではないかもしれない。
番頭は、さらに
「あなたの母方の実家……志魔家は歴史的に重要な魔道の家ですが、すでに絶えたとされていました。そんな家の継承者たるランコさまがもどって来られたことは、魔術関係者にとって大きなニュースです。権益を狙って、羽虫どもが群がってくることも十分考えられます。
まあ、この旅館におられるかぎりはヘンに手を出すものも少ないと存じますが……」
その視線の先にいるのは、あの長い髪をした女性(?)客だ。
ランコたちを喫茶店で見張っていた上で、この旅館にとびこんできた。こういう予約なしのお客のことを、業界用語で「ウォーク・イン」という。
この旅館の客なのだから、人間ではない。
その目的はわからないが、蘭子を気にかけているのはまちがいない。ラウンジや廊下をブラブラするていをとりながら、ちらちら彼女の動きを見張っている。
気になったので、喫茶店であったことを番頭に報告すると
「――そうですか。あのかたらしい」
気になる言い方をした。
メッヒは、やはり客の正体を知っているのだ。
しかし、プライバシーの関係上、客が自ら明かさないかぎり旅館も関知しないのがしきたりなので、のりこもそのあたりを根問うことはできない。
ただ番頭も
「あのお客さまが勝手なことをなさらないよう、注意なさってください」
女性客を警戒して言った。が、その視線を外すと
「……ですが、古くからの世話役がもどってきたのは良かったと思っております。警備を任せることができますのでね」
(せわやく?ああ、シコラクスにキャリバンのことね)




