のりこと叔母(続)2の1
のりこは、旅館のあるじのあかしたる「ソロモンの鍵」を片手に、さまざまな客室をめぐっていた。
部屋の掃除を従業員たちといっしょにするためである。
番頭のメッヒはいない。なんと、いま彼は海外出張に出かけているのだ。
おととい、制御不能に陥ったクワクの電子蜘蛛をおさめたあと
「――ちょっと今から、アメリカまで調べものに行って参ります。帰ってくるまで数日かかるかもしれません」
と、言われたときはおどろいた。
なによりも旅館のことを優先する悪魔が、泊りがけで他の国に出かけるだなんて!
少女あるじのおどろきに、番頭は
「……私としても旅館を離れるのは遺憾です。ですが、旅館の今後のために必要なことですのでね。街の図書館で調べても不明瞭でしたので、この手の情報に強いとされる彼の国の大学図書館に行ってまいります」
この手の情報って……細かい内容は何も聞いてなかったけど、いったいあなたにもわからなくて調べなきゃいけないことってなんなの?そんなに大事なこと?
あるじの問いに、番頭はめずらしく言いよどむ様子で
「ふうむ……なんと申しましょうかね。そもそも、その件というか『そのもの』たちについては、私も本当に無知なのですよ。本質的に、私が属する世界線とは異なるモノたちで、知識の埒外です」
なにそれ?意味分かんない。
「『そのもの』って、いったいなんなの?なんで、急にあわててそんなものたちのことを調べないといけないの?」
あるじの当然の問いに、番頭は
「……そのものたちのことを話題にすることは、私でも気が引けます。たとえば名称を口にすることも……そもそも、人間には正確発音するのも難しいです」
ことばを切ると、つづけて
「……そのものたち自体は古くからいるのですが、コチラ……人間に広く知られるようになったのは20世紀に入ってから……あるアメリカ人が恐怖パルプ小説というフィクションの隠れ蓑をつかいながら、その危険性を世に広く警告しはじめてからです」
「そんなのが、この旅館の今後にどう関係するの?」
問うと
「それは……今はっきりとは申せません。危険ですのでね……ただ、この旅館の存亡に関わる程度に危険であることは間違いありません」
そんぼう?それって滅ぶかってことでしょ?そりゃたいへんだ!
「――ええ。ですから私が参ります」




