のりこと叔母(続)1の13
クワクは、あわてふためいて
「ええぃ、止めぬか、おぬし!ならぬならぬ、とまれとまれ!」
大声で訴えても、蜘蛛の作業は止まらない。
「かくなる上は是非も無し!――えいやっ!」
蜘蛛の男衆は、自ら作った電子の蜘蛛をほうきでたたきつぶした!
「見たことか!造物主の言うことを聞かぬ不埒な被造物めが……おひょっ!」
さけんだクワクだったが、なんと!
踏みつけた箒の下から細かく分かれた電子の蜘蛛がそれぞれ元の大きさになって、ますます庭にゴミをうず高く盛りだす。
数が増えたぶんだけ、作業の効率は増す。
「あいや、あるじ!おたすけを!」
おたすけをと言われたところで、あたしにゃどうにもならないよ。
もはや目ぼしいゴミはないと判断したらしい電子蜘蛛の群れは、そこらにある道具や床まで剥がし、ゴミとして積み上げんとする勢いだ。
「やめて!このままじゃ旅館が壊されちゃう!」
旅館の庭が阿鼻叫喚のちまたとなさんとしたとき……
”In die Ecke,
Spinee,Spinee!
Seid's gewesen.
Denn als Geister
Ruft euch nur
Zu seinem Zwecke
Erst hervor
Der alte Meister.”
(四散せよ、
蜘蛛よ、蜘蛛!
もといた場所へ
なんとなれば魔を
呼出すのはただ
われのなすところ
だれよりもまず
この番頭に従え)
ドイツ語らしい朗々たる詩(?)が響きわたり、それに応じて電子の蜘蛛の光がかき消えた。
もちろんその文句を唱えたのは、玄関前に立つ
「メッヒ!」
綾石旅館の番頭たる悪魔である。
図書館で借りてきた本を入れたトートバッグを手にした彼は、冷ややかな目で男衆をにらむと
「またかってなふるまいをしたな、クワク。使い魔をつくり操るなど、お前にはまだ早いと言っておいただろう」
「……申し訳ござらぬ」
男衆蜘蛛は続けての失敗に、大いにしょげている。
やれやれ、これはまた立ちなおるまで大変そうだ。
メッヒは、そんな男衆を無視して
「そちらの方々は?」
蘭子の後ろに立つ親子を見る。
説明を受けると
「そうですか……まあ、蘭子さまの縁者とあらばやむをえません。宿泊代については、今後の相談というところにしておきましょう……」
ゴネると思ったのに、案外すんなりと受けいれた。
そして、後ろをふりかえると
「私こそ、そこでたまたま宿泊先を探すかたとお会いしましてね。当館をご利用いただけるそうです」
慇懃に紹介されたのは、喫茶店で蘭子を見張っていた髪の長い女性だった。




