のりこと叔母(続)1の12
旅館への帰り道、クワクはしょげていた。
「……それがし、ランコさま、そしてご親子に失礼な疑いをかけてしまいもうした」
そりゃ、結婚詐欺師だと思ってたんだもんな。
しかし、気の良い叔母は
「いいえ。黙っていたあたしが悪かったんです。クワクさんは心配してくださっただけだもの。なにもお気になさらないで」
ほがらかにわらう。
のりこも
「そうよ。結局、あなたのおかげで早くお二人を旅館につれてこられたんだもの。よかったじゃない」
(自分も疑ったことを棚に上げて)はげます。
主筋ふたりのことばに、男衆蜘蛛は
「……そうでござろうか?それがし、無能で役立たずの蜘蛛になっておりませんでしょうか?」
気弱な言葉を発する。
またそんなことを言って。ほんとにどうも、この子は気分のアップ・ダウンがはげしいからな。
「――決まってるでしょう。あなたは有益な蜘蛛の精よ。なんたって、あの偉大なる蜘蛛の王・アナンシの後継ぎなんだから、自分にもうちょっと自信を持ちなさい」
「そうでござろうか……」
まったく、従業員のモチベーション維持はあるじの大事な仕事とはいえ、大変だ。
そんなやりとりをしながら旅館に帰ると、アンジェリカが飛び出してきた。
「――ああ!大変ですわ、あるじ!」
なにごとかと庭にまわると、なんということだろう。
そこには、ゴミがそれこそ山のようにうずたかく盛られている。
その山に、さらにせっせとゴミを積み上げるのは、クワクが作った電子の蜘蛛だ。
「やめてちょうだいと言っても、ぜんぜん聞かなくて!」
すっかり困り顔のからくり女中以上に狼狽したのは、当の電子蜘蛛の生みの親だった。
クワクは七本の手肢をぶんぶん振りながら
「ええい。やめぬか、おぬし!もうゴミを掃くのは十分でござる!」
光る小蜘蛛の前に立ちはだかるが、その脇をすいと抜け、忠実な創造物は作業を続ける。
その様子に
「ええい!おぬし、こうなったら動きを止め……と、ありゃ?」
さけんだ作り手は、はたと自らのひたいを打ち
「……あいや!仕損じた!それがし、こやつを止める呪文を設定するのを失念いたしておりました!」
えっ、それってなに?止められないってこと?――まずくない?




