のりこと叔母(続)1の8
老女は調子高く
「あなたは、あなたがよく知っているようにわたしたち親子の愛の対象です。かがやく太陽です。すてきなあなた。今日あなたとこうして会えたことを感謝します。熱烈に感謝します。わたしの心臓」
慇懃というか情熱的というか、とにかくあまいことばを繰り出す。
いっぽう、母親と違って色黒でヤギのような細い顎を持つ長身の息子は、仏頂面でだんまりしている。なんだか、目の前の蘭子に興味があるとは思えない冷めた目だ。
老女はとりなすように
「わたしの息子は、あなたも理解が及んでいるとおり、信じがたくおそろしいと見なされている病気によって虐げられています。彼の関節は、ふだんからとても音を立てて彼を痛めつけています。だから、彼は陰鬱な森のように静かなのです」
「まあ。苦しんでおられるのね?文面でご病気なのはうかがっていたけど、そこまでお悪いとは想像しておりませんでしたわ」
蘭子が気の毒な視線を男性に向ける。
老母はヘラヘラとした笑みで
「高潔なわたしの息子は病気に苦しんでいます。しかし、自分自身をあなたの助けとして差し出すことに、ためらいはありません」
「まあ、ありがとう」
「とはいえ、彼があの縛られたプロメテウスのように崇高な精神によって耐え忍んでいる疼痛から小休止を得るためには、今現在いささかの経済的困難があることは悲劇的な事実です」
「まあ。お金が必要なのね?」
そんな、機械翻訳ばりにぎこちないやり取りを聞いているうちに、少女あるじの足元に控えるクワクがぷるぷる震えだした。
けっして椅子の下でうずくまっていることがつらくなったわけでも、トイレに行きたくなったわけでもあるまい。
「彼は、あなたに些少の慈悲を乞うことの許可を沈黙のうちに求めています。それは彼の母、すなわちあなたの目の前にいるわたしそのものが求めていることと同様です」
こびへつらった老女のことばに
「あら、たいへん。でも、あたしは今ちょっとしか手持ちがなくて……」
財布を見始める蘭子に、
老女が
「それを譲り受けることは彼にとって、とても幸運です」
そこまで聞いて、ついに男衆蜘蛛はだまっていられなくなったらしい。




