のりこと叔母(続)1の2
そんな、ちょっとこじらせぎみのクワクが、声をひそめて言うのは
「――あるじは、最近ランコさまがスマホに熱中しておられるのに気づかれましたかな?」
なんだ、そんなの。もちろん知っている。
なにせ、叔母にそれを持つように勧めたのは自分だからだ。
のりことしては、ふつうのオトナ女性である叔母に携帯電話ぐらい持っておいてほしかった。
そして番頭のメッヒも、その出費を旅館が負担することになにも文句を言わなかった。
「あの無為徒食な春代さま(のりこの父・幹久の妹)でさえ、その通信費は旅館から出しておりました。あの方に比して百倍は働く蘭子さまに、携帯電話をお持ちいただくのは当然です。旅館業務の円滑のためにも有益でしょう」
蘭子は奴隷あつかいの暮らしが長かったから、個人での携帯電話など持ったことがなかったらしい。だから初めてのスマホを手にして、とても喜んでいた。
いろいろ操作に熱中するのは当然だろう。
そんなあるじの冷ややか声に、しかし蜘蛛はさらに声をひそめて
「されど、ランコさまはSNSにも積極的に参加しておられるようです」
へえ。そうなの?それは知らなかった……えっ?でもそれって
「なに?あなた、ランコおねえちゃんの電話をのぞいたりしてるの?」
姪の自分も知らなかったことを、クワクが知っているということはおかしいじゃない。思わず不審のまなじりを向けると、
蜘蛛はあわてて七本の手肢をふって
「いや。画面を覗くなどという、左様な恥知らずなまねをそれがしがいたすはずがございませぬ。……されど、お忘れではありませぬか?それがしは蜘蛛の精。いかに電子信号で編まれたとはいえ、巣で行われたことに関しては、おのずと気づくこともございます」




