のりこと霧の部屋8
バキ――ン。
のりこは屋根らしきものを突きやぶると地面に落下した。
「……あ――っ、こわかった」
さいわいなことに、じょうぶな蜘蛛の糸にくるまれていたおかげで、少女の身にはケガもなにもない。
のりこは自分をくるむ糸からぬけだすと、上の穴を見て
「クワク!」
たすけを呼んだ。
しかし返事はない。
そんなに長い距離を落ちたわけでもないのに、どういうことだろう?
(う――ん、ここはあんまり深く考えずにおこう。どうせ『ここ』はまともじゃないんだから)
この旅館の異常さに慣れてきたのりこは、気もちを早々と切りかえて、ここから出るべくあたりを見わたした。
暗くてわかりにくいが、どうやら古い日本の農家のような土間づくりに藁がしきつめられている。そして、そこに
(におうなぁ)
ケモノくさいにおいがふんぷんとたちこめている。まるで
(動物園のオリに入ってしまったみたい……)
と思っていると
「モ―――ッ」
急に、暗い奥から鳴き声がした。なんだか大きな影がうごめくのが見える。
「えっ、なに?…………ウシ?」
のりこが思わずささやくと
「――牛だと?失敬な童だな。わしをそのような家畜といっしょにするとは」
頭をもたげて少女の方を向いたその顔は
「に、にんげん!人面犬といっしょ!」
のりこの発言に、
その人の面に牛の体をもったものはさらにふきげんそうに
「ハンッ!いったいこのわしのどこが犬に見える?おろかな童よ」
尊大な口調で言った。




