のりこと叔母21
すっかりふつうの人間に戻ったランコを見ながら、のりこはメッヒに気になっていたことをたずねた。
「ねえ。あなたってば、最初からおキャリはんがほんもののランコおねえちゃんだって気づいていたの?」
その問いに、番頭は首を少し傾げつつ
「……まあ、うっすらとですね。彼女が人間女性であることには気づいておりました。それに、なによりただよう匂いと申しますかね。持っておられる気配があなたの母上、そしてあなたさまによく似ておられました。ですから、従業員たちもすぐ彼女になついたのですよ」
「なんで言ってくれなかったの!?」
不満声には
「あなたがそれを知っては、黙っていないでしょう?お客さま……にせのランコさまといざこざを起こすことは、番頭としてすすめられませんでした」
そんなことを言われても納得のいかないのりこに対して、さらに
「なにより、彼女はすでにあのバビロン女の奴隷になっていました。下手ににせものを刺激すると、ランコさまに危害が及ぶ可能性が高いと考えました」
そう言われては、ぐうの音も出ない。実際に叔母は一度命を失ったのだから。
番頭は、従業員たちとお茶を愉しむランコを見ると
「しかし、あのような隷属下にありながらそれに逆らって、あなたの命を救おうとなさるとは人間……コチラモノの自由意志は、やはり興味ぶかいですね。
われわれふつうのアチラモノにとって契約は絶対です。その契約を超えての自己犠牲など、私どもの理解を超えています……」
感心なのかあきれているのか、よくわからない口調で言った。
くわえて
「——それより、今回はあなたさまがあの扉を開けずにすんでようございました」




