のりこと叔母18
そんなすっかり入り混じってしまった異形の存在に、槍と鎌を突き立てたふたりがいる。
ミカエルとサリエルだ。
「完全に取り込まれたな。この罪深い異教女め」
天使のつぶやきに、
メッヒが
「あなた方は、どうも華美な女性にきびしいですね。そもそもの獣は自分たちが作ったものでしょうに」
冷やかす。
「メッヒ!そんなことより早く、おキャリはんを助けて!お医者さんを呼んで!もうもどってきてるんでしょ!?」
血を流して横たわる巨体にすがりつくあるじの叫びに、
ふりかえった番頭は、しかし
「……アチラの医者はたしかにもどっていますが、あの男にキャリバンさまの手当てはできませんよ。あの金髪メガネは、あくまでアチラモノを診る医者です。コチラモノ……人間への医療は、技術的にも法律的にもできない」
——えっ?なに言ってんの?だって、どう見たっておキャリはんは……って、あれ!?
なんということだろう!その異形ともいえるキャリバンの顔つき・体格が縮んでいくと、ついにはまるっきりふつうの成人女性のすがたになった。
「ニセ蘭子嬢の束縛がとれたんですね。本来のすがたにもどられたのでしょう」
驚きで声も出ない少女に、メッヒは
「キャリバンさまは人間ですよ。魔術によって歪められてはいましたが」
なにそれ!?そんなの、あたしわからなかったよ!……でも、それならそれでいい!
「じゃあ、ふつうのお医者さんを呼んで!早く!」
あるじのさけびに、
番頭は眉をひそめて
「……残念ですが、それも無理かと。私の見るところ、その方はすでに事切られておられます」
「こときれって……」
「亡くなっておられます」
そのことばに呆然とした少女あるじは、抱えた体が冷たくなってきているのに気づいて……
そんな!あたしのことをかばって!死ぬなんて!そんな!……ひどい!!
あまりのことに、女性の体を抱きしめたまま嗚咽する。
「ひどいって言われてますよ」
番頭が話をふったのは、捕獲した獣と女性の混合体をトランクにしまっているふたりだ。
ミカエルは表情かたく
「——いくら非難されても、一切反論できないね。曲がりなりにも天使たるものたちが、自分たちのハルマゲドンに逸る気持ちにつけこまれて無辜な人間に手を出すとは……異教徒相手などという言い訳は成り立たない」
サリエルも
「それは堕天使側も同じだ。堕ちたといえ、至高の主に生み出された存在として、人間に襲いかかるなどゆるされんことだ。今回はまったく俺たちの責任だ」
「ではサリエル」
「わかっとる……ここに死と生をつかさどる天使が揃って、なにもせんなどありえん。その人間の命は」
「「われらでとりもどす」」
そう言うと、ふたりの偉大な天使・堕天使はその白と黒に光り輝く羽根をひろげ、横たわる女性をはさむ。




