のりこと叔母11
「ようこそ、綾石旅館へお出でたまわりました!」
「「———」」
のりこが完璧な営業スマイルでのべる挨拶を無視して、旅館の前には白い羽根をはやしたものと黒い羽根をはやしたものたちが、にらみ合っている。
天使側がほえる。
「天使長………ミカエルを出せ!事態は今一体どうなっているんだ!?ほんとうに獣がいるのか!?
ということはどうなんだ!?まさかわれわれのあずかりしらぬところでハルマゲドンの準備がなされているということではないのか!?」
堕天使側も
「こっちこそサリエルはどうなった!彼に堕天使がわの全権を委ねたと言っても程度があるぞ!これだけ重要な課題ならば、中央委員会に持ち帰って審議せねばならない!」
「えーっと、それは……」
のりこが返事する前に
「ふん、堕天使どもがいっぱしに委員会だとよ。学級委員会程度のもんじゃないかね?」
天使のヤジが飛ぶものだから
「なんだと!?この飼いならされた小鳥野郎どもが!上の言うことにただ思考停止で唯々諾々としたがっているペット野郎に、自由主体を重んじるおれたちのありかたがわかるものか!この鳩ぽっぽどもめ!」
「なにを!?しょせん野良のカラスが、カーッカーッうるせぇんだよ!」
ただの悪口合戦がくり広げられる。
あたしがなに言うかなんて関係ないみたい。たがいに言いたいことを言いたいだけなのね。
そのひりついた緊張感を見て、のりこは前にメッヒに聞かされた、会社に組合があったら従業員のあいだで組合よりと会社よりに別れてもめることもある……という話を思い出した。
もしウチの旅館に組合があったら、こんなふうにもめるんだろうか……と、のりこは思った。
それにしても、天使たちって意外とガラが悪いなぁ。
少女あるじがすっかり閉口していると
「あーら、たいへんね、のりこちゃん」
「ランコ……おばさん」
その場にド派手な出で立ちであらわれたのは、母方の叔母だった。
ハデな赤のドレスに、金や真珠の宝石で飾っている。どこのパーティに行くんだという格好だ。後ろにはしょげてるキャリバンを引き連れている。
ニコニコ顔で天使・堕天使の群衆を見わたすと
「あたしが一つ口をきいてあげてもいいわよ。旅館のあるじと言ってもまだこどものあなたが、あの精霊たちに応対するのは大変でしょうからね」
どうやら、なにもかもお見通しらしい。




