のりこと叔母9
ミカエルは肩をすくめて
「うまく制御してたつもりだったんだけど、おかしいなあ。急に逃げ出すとは思わなかった。きみが南米のアナコンダの成分を混ぜたのが悪かったんじゃないか?」
文句を言うと、
サリエルは
「うるせえ、そんな訳あるか!それよりおまえがつかったジャガーの血がまずかったんじゃねえか」
責任をなすり合う。
番頭は冷ややかに
「ともかく、そういうことは前もって言っていただかないと困りますな。当旅館ではたしかにペットの同行は許可しておりますが、かってな生物実験までは許可しておりません。
第一、廃棄と言っても、こんな強力な獣を捨てても問題のない異世界を探すこと自体むずかしゅうございますよ。うちのあるじは、いまだソロモンの鍵の制御に慣れておられません」
そうだよ。あたしはこんな鍵、毎日の置き時計のねじ回し以外でつかうことないんだから。
「このあいだ、この街への移民が異世界の残滓を持ちこんで爆発させかけた事件は、あなたがたとて把握しているでしょう?医者たちが対応しなかったら、この世界は壊れていたところでした」
なんだ?そんなヤバいことあったの?聞いてないよ、あたし。
「へたな異世界を刺激して、後で旅館に補償請求が来られてはたまったものではありません……と、大丈夫ですか?どうやらその獣、分裂してますよ」
「あっ!こりゃいけない!」
話をしてるいつのまにか、しばっていた獣の頭それぞれが分かれ、縄をすりぬけている。
「しまった!不完全なぶんバラけやがった。ちくしょう、こうなったら捕まえるのがことだぞ!」
ミカエルとサリエルが大慌てで押さえにかかるが、なんといっても数が多すぎて手が回らない。
番頭は冷ややかに
「こんなことだろうと思いました。あなたがた天使系は鷹揚といえば聞こえはいいですが、どうも物事の進めかたが地についてないですからね。こんなに禍々しいオーラを出されては、さすがにもう他の天使や堕天使たちに気づかれているのでは?」
つっこむと、
「そうだ。あいつら、ハルマゲドンの予兆を今か今かと心待ちにしてるもんなぁ。大挙してやってくるぞ。こんなところで顔を合わせたら喧嘩になる。これもおまえがちゃんと天使どもを抑えとかないからだ」
「心外な。きみたち堕天使がすぐ挑発するからだ」
また言いあいになる。




