のりこと叔母8
サリエルは
「落伍者には落伍者のプライドがあるってことよ。
そもそも堕天使たちには、日頃から正規の天使からあなどられがちな鬱憤がたまっているからな。お高くとまった天使どもと喧嘩するんなら、いつでもやってやると思っているものはたくさんいる。ハルマゲドンを求める声は、堕天使でも高まっていたんだ。
……正直、こないだの千年紀が終わるころなんて、ついに封が解かれるんじゃないかと期待してるやつも多かったんだ。それがなんにもなかったからな、がっくしきた連中の不平をなだめるのに苦労したぜ」
これも同じく、組織の上に立つものの苦労をのべた。
のりこはその世代じゃないのでよく知らなかったが、こないだの世紀が切り替わるときには、いろいろうさんくさい言説が流れたらしい。
「恐怖の大魔王が降り立つとか人類が滅亡するとか……まあ、たくさんありましたね。くだらない終末思想の極みですが、人間はそういった妄言にふりまわされがちな生き物ですね。
そもそも、われわれ悪魔が人類を滅ぼそうとしているという考え自体が馬鹿げています。人類が滅んでしまっては、いったいその後われわれはなにで遊んだら良いのです?おもちゃを壊すような馬鹿な真似はしませんよ」
悪魔のみょうな正論に、サリエルはきまり悪げに
「——だからまあ、俺とミカエルとで『獣』の試作開発にとりかかったんだ。この旅館で人口増減の儀をするのは決めていたから、その前に南米のアマゾンやらなんやらで材料をいろいろ揃えてな……」
どうもふたりともモコモコとした荷物を持ってきたと思っていたら、南米で色んな生物を集めてきたのか。それにしても
「なんで、そんなあぶない実験を旅館でするのよ!?」
少女あるじの問いにミカエルが
「それはね、ここの旅館にはこんな広い部屋もあるし、少々ぶっとんだことになっても大丈夫だと思ったんだ。客のプライバシーを保ってくれるから、情報も外にもれないし。
それに、なんたってここは特異点だから、いざ実験に失敗しても、すぐ異世界へ獣を廃棄することができる。もちろん、うまくつくるつもりではいたんだけどね……」
そう言って、縄の下で暴れる獣を見る。




