のりこと叔母6
「その書のなかで、キリスト教徒は悪魔とその側についた人間との戦いのせいで苦難の道をたどるが、最終的にはメギドの丘でおこる『ハルマゲドン』の戦いに勝利し、救世主が統治する千年王国のもとで永遠の生が実現する……という非常にご都合主義で、自分勝手なシナリオを立てています」
いやそうな口調だ。
そりゃこいつ、悪魔だもんな。自分たちが負けるシナリオなんていやだろう。
「まあ黙示録なんて、ふつうのキリスト教徒は礼拝でもなんでも滅多に触れない部分ですがね。終末論的におどろおどろしく扱われがちな、やっかいな部分ですから」
鼻でわらう。
それに対して
「貴き書物を茶化すのは、やめてほしいね!」
文句を言ったのは、必死にロープを引っ張るミカエルだ。
「そうだ、そのままひっくくってくれ!そうそう、それで静かになる……」
二匹の獣をしばりあげると、なんとかバルコニーにまで下りてくる。
しかし、みるからにおぞましげな生き物(?)だ。
番頭は、それらを見て首をかしげて
「今なぜその獣たちが?それらはたしか、七つの封印が解かれて……天であなたがた天使と竜……悪魔が戦ったあとに出てくるはずじゃなかったですか?それに、どうもその獣は不完全な感じがしますね。しっかりくっついてないような……」
そのことばに、天使長はバツが悪げに
「……いや、これはまあなんだ……一種の試作品みたいなもんだ」
言った。
「試作品?」
「いや、いつ小羊が七つの封印をお解きになられても良いように、おれたち天使も予行演習しといたほうがいいだろう?」
もちろん訳がわからないのりこに番頭が教えてくれたところによると、「小羊」とは、天の玉座のそばにいるえらい存在らしくて、ふつうの解釈では救世主イエス・キリストを示すことばらしい。
黙示録では、その小羊が七つの巻物の封印を解くと天の戦い、そしてハルマゲドンが始まることになっているというが……
「予行演習ですか?サリエルも参加して?」
メッヒはジト目でふたりの天使、そして縛られた獣を見ると
「ハハン……あなたがた、もしかしてちっともハルマゲドンが始まる気配がないからと、自分たちで獣を用意したんじゃないでしょうね?」
そのことばに、ふたりともギクッとしたようすだったが、番頭の冷たい視線に耐えられなくなったのか、ミカエルのほうが辛抱できないように叫んだ。
「だってさ!ちっとも小羊が封を解く様子がないからさ!ハルマゲドンに備えている天使たちの『まだかまだか』って突き上げが、直接の上司たる私の方にくるんだよ!
封が解けたらラッパを吹くことになってる天使たちなんて『いったいいつになったら自分たちはラッパを吹き鳴らすんだ?このままじゃラッパが錆びちまうよ』なんて嫌味言ってきてさ!」
ふだんの余裕ある態度からは想像のつかない、言い訳めいたことばだった。




