のりこと叔母3
(そういや「オカルト」って「隠された」って意味だって、メッヒが言ってたな)
つづけて
「魔術師の家は代々、いっさいのくだらない人間関係を排除して探求を続けていく。ユリコだって若いときは結構そうだったのよ。他人など信じず、純粋に力だけを求めていた。なのにそれが、あなたの父親と出会って変わってしまった……」
いまいましげに言った。
「あの男……幹久は、ユリコに生きるよろこびを与えてしまった」
(なにそれ?よろこびなんて、あったほうがいいに決まってるじゃない)
のりこの不審顔に、ランコは顔をいがめて
「学生時代から、あの男はかわっていた。われわれ魔術の家に生まれたものは、術の深奥を極めることのみが目的で産み落とされたもののはずなのに、幹久は自分の人生をいかに充実させるかが主で、魔術はそのための道具に過ぎないという異端思想の持ち主だった。大事にすべきものの順序がまるでおかしかった」
(おかしいって、まともじゃない?そりゃ自分の人生のほうが大事でしょ?)
そんな姪のさらなるいぶかしみを無視して、叔母は声荒く
「腹の立つことに!そんな不良の考えを持っているくせに、あなたの父親は天才的に魔術の才能にめぐまれていた。同世代のだれよりも勘が良くて、不可能とされていた失われた魔術の再現にも成功した!
本来ならば、あの悪魔を召喚して契約するなんて、かのドイツの学者以来500年ぶりの大偉業なのよ。それをこんな旅館の番頭に使うだなんて気がしれないわ!どういうつもり!?」
娘だからって、あたしに文句言われたってこまるよ。というか……
「『こんな旅館』などと呼ばれるのは不愉快ですね。私は今の自分の職場に自負を持っております」
と、しかめ面で立っているのは、いつのまにかもどっていた番頭……その呼び出された悪魔たるメッヒだった。
客じゃなかったら手を出してたんじゃないかと思うぐらい不機嫌な顔だ。
しかしランコも番頭に負けることなく、不快な表情を崩さず鼻を鳴らすと
「——その悪魔を使えば、どれだけ力の深奥に迫ることができるかしれないのに、それもしないで姿をくらましてしまうだなんて、あなたのお父さんは本当に気がしれないわ」
(そりゃ、あたしだってそう思うよ。いったいあたしのおとうさんって、なに考えてるんだろう?実の娘に一回も顔を見せないなんて、つかまってるとか特別な事情でもないかぎりおかしすぎるよ……って、そうだ)
「おばさんの力なら、お父さんの今いる居場所がわかるんじゃないの?」




